第11章 染井吉野
朝、いつも通りの時間に目が覚めて、支度を済ませて談話室に行くと見覚えのあるオレンジの髪が朝日に照らされてる。
「天馬くん」
「…芽李さん。ただいま、」
「お帰りなさい。」
沈黙の後、天馬くんのほっぺが赤くなってるのに気づいて、ぎゅっと胸が痛んだ。
「痛そうだね、そこ」
「いや。」
「そう…あ、何か飲む?」
「ん、」
お互いに何も話さず、作業の音だけが響く。
天馬くんの前にあるコップを横目で見て、コンソメスープでもいいかと思い立ち、玉ねぎとベーコンを細かく切ってぱぱっと作る。
いい匂いがしてきて火を止める。パセリを振ったら完成。
「水、飲んでたみたいだったから。」
そう言って、カップに注いだスープを差し出す。
「いい香りだな」
「味もいいから、多分。」
「いただきます、…んまい。」
「そう?良かった。朝ごはんも楽しみに、してて、」
「…芽李さん?」
「ん?」
「いや、なんでもない。」
その返事を聞いて、なんだか疑問に思うものの、なんでもないって言うならそうなのかと思い直して、今度は朝ごはんの用意にとりかかる。
「おはよう、芽李ちゃん。」
「監督、おはよう。監督もスープ飲む?」
「カレー味?」
「残念、コンソメ。」
「もらう」
「了解、今度はカレー味のも作るね。」
「うん!」
監督にもスープを運んで、コトッと目の前におく。
「さ、召し上がれ。」
「いただきます」
おいしいって言ってくれたその声だけで、なんだか調子が戻った気がするから、不思議だ。
そのうち、他の子たちも起きてきたようで、朝ごはんの支度が終わる頃には談話室が、少しだけ騒がしくなってきた。
「はよー。」
「おはよ。」
「おはよう。」
「おはよ〜」
「………」
「テンテン!?」
「帰ってたんだ」
「昨日の夜遅くにね。」
みんなの心配する声と、天馬くんの話し声をBGMに、使った調理器具の片付けをする。
「…心配させて悪かった。劇団のことは親父に認めてもらった。」
「ふーん。」
「よかった……!」
「やったじゃん、テンテン!」
「にんにん、分身しなくてもいいね〜」
「なんの話だよ」