第11章 染井吉野
「他人以上の関係になれない?」
「うん、…だってさ、いいよいいよって言ってくれたら、それは都合のいい楽な関係ではいられるかもしれないけど」
かずくんが一瞬歪めた顔に、私も少し胸は痛んだ。
「でも、そう言ってくれた相手が、自分の意見言えなくて、自分の見えないとこで辛い思いしてるなら、私そっちの方が嫌だな」
「…うん」
「意見を言う言わないって、その相手とどうなっていきたいかだよ。深いとこで繋がりたいなら、相手の意見聞いて自分の意見伝えてそうやって、向き合っていかないと。」
「ん」
「かずくんが、向き合いたい夏組のみんなは、」
ピクッと眉が動く。
…やっぱり当たりだ。
「意見言ったくらいで見限ったりしないっていうのは…かずくんが1番わかってるでしょ」
「…」
「怖いなら、監督にも話してみたら?」
「ん、」
「…なーんて、年長者なんで偉そうなこと言ったけど、私も自分の意見言うのちょっと苦手な時あるから、そこは共感」
戯けて言うと、釣られて笑った。
「メイメイ、ありがとう」
「髪、乾かしただけだよ」
「メイメイは、いつもオレの弱いところも、認めてくれるじゃん。また、髪乾かしてくれる?」
「うん。いいよ、さっきも言ったけどね」
「そっか♪」
よーしっと、立ち上がってじゃれつくように私を抱きしめてくる。
「おっと」
「充電完了!明日から頑張れそう!期待してて、にゅー、カズナリミヨシになるから!カントクちゃんにも相談してみる!」
「うん」
ぽんぽんとあやすように背中をさすれば、もう一度強く抱きしめられて、そのあとはパッと腕が離れた。
「おやすみ、メイメイ」
「お休み、カズくん」
どうか、今日は、カズくんがいい夢を見られますように…。
そっと背中を見送りながら願った。
…私も早く寝よう。
ベットの上に寝転がれば、案外すぐに眠気が襲ってくる。
「ふぁあっ、」
もうすぐに迫っている、新生夏組の初舞台に想いを馳せながら、今のところうまい具合で進んでるし、春組の時よりかはスムーズに行くだろうなんて、考えつつ寝返りをうった。