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3月9日  【A3】

第11章 染井吉野


 夜の稽古も終わって、部屋で今日のことを思い出しながら敗れたフライヤーを直す。

 もう涙は出なかったけど…

 「痛かったな…」

 感傷的になるのは良くないと思いながらも、絆創膏の如く貼られたセロハンテープが痛々しい。

 …トントン

 ドアをノックされて、私はそれを急いで隠した後、

 「どーぞ」

 と、返事をしながら扉を開けた。

 「かずくん」
 「やっほー、こんな夜にごめんね」
 「ううん、どうかした?」
 「あー……………ちょっとね」
 「髪濡れてるじゃん、中入って。乾かしてあげる」
 「まじ?!ちょーラッキー!ありがとねんっ」

 ちょこちょこっと入ってきた彼を椅子に座らせて、ドライヤーをかけてあげる。

 「ねぇ」
 「どうしたの?」
 「オレ、」

 その後の言葉を待つのに、続きがこない。
 ドライヤーの音のせい?

 「なにかあった?」

 聞いても帰ってこない返事を、私は肯定だと受け取って。
 こういう時、どうすれば正解かと考える。

 ん〜…と、唸る声。

 「…まぁ、あって…あったんだけど、話そうと思ったらオレ情けねぇ、って思っちゃって、」

 しゅんっと、耳が垂れた子犬のように思えて。

 「私、お芝居については、素人なので具体的なこととか言えないけど、話聞くのだったらできるよ。でも言いたくないなら、言わなくていい。そういう時もあるよね。
 …でも、しんどいなーって、甘えたいなぁってなったらこうやって、髪乾かすのもいつでもやってあげる」
 「メイメイ…ありがと」
 「うん」

 いつもはセットしてある髪も、お風呂から上がったらサラサラだなぁなんて思いつつ、少し長めの髪は思ってたより乾くのが早かった。

 「終わったよ。夏とは言え、風邪ひいたら困るもんね」

 そう言ってドライヤーを仕舞うと、椅子に座ったままかずくんが上を見上げてくる。

 「メイメイ、自分の意見ってさ…どうしたらちゃんと言えると思う?」

 彼の相談したいことってコレかな、…。

 「んー…」
 「あ、いや、コレはオレの話とかじゃなくて、友達の話で…」
 「そっか…まぁ、なんだろう。その友達次第なとこもあるけどさ、自分の意見でも言いたくないなら、言わなくてもいいんじゃない?」
 「…え?」
 「けど、言わなかったら他人以上の関係にはなれないとも思うけど」
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