第11章 染井吉野
夜の稽古も終わって、部屋で今日のことを思い出しながら敗れたフライヤーを直す。
もう涙は出なかったけど…
「痛かったな…」
感傷的になるのは良くないと思いながらも、絆創膏の如く貼られたセロハンテープが痛々しい。
…トントン
ドアをノックされて、私はそれを急いで隠した後、
「どーぞ」
と、返事をしながら扉を開けた。
「かずくん」
「やっほー、こんな夜にごめんね」
「ううん、どうかした?」
「あー……………ちょっとね」
「髪濡れてるじゃん、中入って。乾かしてあげる」
「まじ?!ちょーラッキー!ありがとねんっ」
ちょこちょこっと入ってきた彼を椅子に座らせて、ドライヤーをかけてあげる。
「ねぇ」
「どうしたの?」
「オレ、」
その後の言葉を待つのに、続きがこない。
ドライヤーの音のせい?
「なにかあった?」
聞いても帰ってこない返事を、私は肯定だと受け取って。
こういう時、どうすれば正解かと考える。
ん〜…と、唸る声。
「…まぁ、あって…あったんだけど、話そうと思ったらオレ情けねぇ、って思っちゃって、」
しゅんっと、耳が垂れた子犬のように思えて。
「私、お芝居については、素人なので具体的なこととか言えないけど、話聞くのだったらできるよ。でも言いたくないなら、言わなくていい。そういう時もあるよね。
…でも、しんどいなーって、甘えたいなぁってなったらこうやって、髪乾かすのもいつでもやってあげる」
「メイメイ…ありがと」
「うん」
いつもはセットしてある髪も、お風呂から上がったらサラサラだなぁなんて思いつつ、少し長めの髪は思ってたより乾くのが早かった。
「終わったよ。夏とは言え、風邪ひいたら困るもんね」
そう言ってドライヤーを仕舞うと、椅子に座ったままかずくんが上を見上げてくる。
「メイメイ、自分の意見ってさ…どうしたらちゃんと言えると思う?」
彼の相談したいことってコレかな、…。
「んー…」
「あ、いや、コレはオレの話とかじゃなくて、友達の話で…」
「そっか…まぁ、なんだろう。その友達次第なとこもあるけどさ、自分の意見でも言いたくないなら、言わなくてもいいんじゃない?」
「…え?」
「けど、言わなかったら他人以上の関係にはなれないとも思うけど」