第11章 染井吉野
「…やめなよ、汚れてるんだから」
「さき、行ってていーよ」
「…芽李さん」
「わかった、先いってる。早く追いついてね」
「うん」
我ながら頑固だ。
でも、コレだけは曲げられない。
咲と、MANKAIカンパニー…私の大事な物。
傷ついたのは、フライヤーだけじゃない。
「さっさとビラ配っちゃおう。いつまでも終わらないし。」
ポンっと幸くんに肩を叩かれた椋くんが、こちらを気にしながらもついてく。
「…あ、そうだね」
…拾ったら、ちゃんと追いつくから。
「あっちにも、こっちにも…」
バラバラになってる。
こんなにしなくても、いいじゃないか…。
周りから見たら、私多分変な人なんだろうけど。
道路を這いずりまわってたら、革靴が見えて顔を上げる。
「あ、まって踏まな…い、」
「何してるの?こんなところで」
「あ…」
見覚えのある顔だった。
しゃがみ込んでる私と同じようにしゃがんで、そして足元にあるフライヤーの切れ端を拾ってくれた。
「あなたは、」
「MAN?…舞台のチラシ?」
コクッとうなづく。
「泣きながら、こんなもの拾ってたら注目の的になるんじゃないかな?」
少し棘のある言い方。
だけど、汚れてしまったチラシを拾い上げてくれるような優しいヒト。
「…たしか、芽李さん、だったよね?」
「あなたは…名前、えっと、」
「教えてなかったかな?」
コクッとうなづく。
「卯木千景、…覚えなくてもいいけど」
「千景さん」
「ほら、立ち上がりなよ」
こんなところで会うと思わなかった。
差し出された手を、そのまま取る。
「ありがとうございます、」
「はい」
差し出されたぴんっとアイロンをかけてある白いハンカチ、刺繍されてあった鈴蘭のモチーフ。
「?」
「泣いてるの、気づいてないの?」
「え、あ…ほんとだ」
「フッ、…よっぽど必死だったんだね」
少し荒っぽく、そのハンカチを私の目元に当てる。
「それ、あげるよ。まだ使ってないから、」
「そんな」
「それじゃあ、もう会うこともないだろうけど。
…気をつけなよ、君は色々危なっかしいから」
ポンっと私の肩に手を置いて、通りすぎた彼。