第11章 染井吉野
丞さんも止めに入ってくれたけど、引くのは無理そう。
そう思った時、きたのは顔馴染みのレニさんだった。
「…なんの騒ぎだ?」
「あ!レニさんじゃん!」
「珍しい〜!」
「レニさん……」
「やぁ、花屋のお嬢さんもいたのか。…うちの団員が何かしたか?」
「こんにちは、」
こんな状況でも、挨拶だけはしてみる。
「うちの団員…?」
「GOD座の支配人の神木坂レニです。晴翔が迷惑かけたかな」
「…いえ、べつに」
「悪いね。ちょっと血の気の多い子だから。君たちもビラ配り?何やるの?」
「あ、アラビアンナイトモチーフのお芝居でー。
よかったら、どうぞ」
持っていたフライヤーを椋くんが、レニさんに差し出す。
今回のフライヤーの仕上がりも、物語の雰囲気が出ててとっても好きなデザインだった。
レニさんは、あんなに大きな劇団を持ってるんだし、前の晴翔みたいに貶したり、芽をつむようなことしないはずだって
「へぇ、アラビアンナイトか…って、MANKAI、カンパニー…」
…思ってたのに。
目の前で引き裂かれるフライヤー、それはまるでスローモーションみたいに、はらはらと散らばって地面に落ちる。
風で舞い、見ず知らずの人に踏まれて泥がつく。
「え!?破ってー!?」
「…何こいつ」
せっかく、カズくんが作ってくれたのに
せっかく、臣くんが写真を撮ってくれたのに
せっかく、みんないい表情なのに…
「どうして…」
どうして、晴翔そんな顔で笑って見てるの?
「レニさん!」
「やめなよ、芽李さん」
「っ、」
レニさんに初めて会った時、
ゴット座を知った時、
この人は、凄い人だと思った。
カンパニーを立て直すって言った時、いつでも相談に乗るって言ってくれてた。
「……行くぞ、丞、晴翔。」
幸くんに言われて噛み締めた唇は、血が滲んで鉄の味がした。
「何あれ。団員も団員なら代表も代表だね」
「なんか、劇団の名前を見た途端、態度が変わったような気がするけど」
「弱小ってわかったからじゃない、性格悪」
「そうなのかなぁ」
「何してんの、芽李さんは」
「…フライヤー、一枚だって無駄にしたくないんだ。」
拾い上げたフライヤーのバラバラになった部分を、探す。