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3月9日  【A3】

第11章 染井吉野


 丞さんも止めに入ってくれたけど、引くのは無理そう。
 そう思った時、きたのは顔馴染みのレニさんだった。 

 「…なんの騒ぎだ?」
 「あ!レニさんじゃん!」
 「珍しい〜!」
 「レニさん……」
 「やぁ、花屋のお嬢さんもいたのか。…うちの団員が何かしたか?」
 「こんにちは、」

 こんな状況でも、挨拶だけはしてみる。

 「うちの団員…?」
 「GOD座の支配人の神木坂レニです。晴翔が迷惑かけたかな」
 「…いえ、べつに」
 「悪いね。ちょっと血の気の多い子だから。君たちもビラ配り?何やるの?」
 「あ、アラビアンナイトモチーフのお芝居でー。
 よかったら、どうぞ」

 持っていたフライヤーを椋くんが、レニさんに差し出す。

 今回のフライヤーの仕上がりも、物語の雰囲気が出ててとっても好きなデザインだった。

 レニさんは、あんなに大きな劇団を持ってるんだし、前の晴翔みたいに貶したり、芽をつむようなことしないはずだって
 
 「へぇ、アラビアンナイトか…って、MANKAI、カンパニー…」

 …思ってたのに。

 目の前で引き裂かれるフライヤー、それはまるでスローモーションみたいに、はらはらと散らばって地面に落ちる。

 風で舞い、見ず知らずの人に踏まれて泥がつく。

 「え!?破ってー!?」
 「…何こいつ」

 せっかく、カズくんが作ってくれたのに
 せっかく、臣くんが写真を撮ってくれたのに
 せっかく、みんないい表情なのに…

 「どうして…」

 どうして、晴翔そんな顔で笑って見てるの?

 「レニさん!」
 「やめなよ、芽李さん」
 「っ、」

 レニさんに初めて会った時、
 ゴット座を知った時、
 この人は、凄い人だと思った。

 カンパニーを立て直すって言った時、いつでも相談に乗るって言ってくれてた。
 
 「……行くぞ、丞、晴翔。」

 幸くんに言われて噛み締めた唇は、血が滲んで鉄の味がした。

 「何あれ。団員も団員なら代表も代表だね」
 「なんか、劇団の名前を見た途端、態度が変わったような気がするけど」
 「弱小ってわかったからじゃない、性格悪」
 「そうなのかなぁ」
 「何してんの、芽李さんは」
 「…フライヤー、一枚だって無駄にしたくないんだ。」

 拾い上げたフライヤーのバラバラになった部分を、探す。
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