第11章 染井吉野
「それにしても、驚いた。あのカメラマンと朝帰りかと思ったら、酔っ払った至ひっかけてくるんだもん」
「幸くん言い方」
「でも、昨日の至さんの弱った感じも、それを支える芽李さんも少女漫画みたいでキュンっとしましたぁ」
「アレは、ただの酔っ払いの絡み」
「椋くん、何でもかんでも少女漫画になっちゃうね?」
中学生を二人連れて、街へと出てきた昼前。
…大丈夫、合法だから。
今は夏組のフライヤーを配りに出ている。
「あっちでゴット座がストリートACTやってるって!」
そんな声を耳に挟んで、前を歩く2人を引き止める。
「2人とも、あっちでくばらない?」
「なんで?」
引き留めても真っ直ぐ先を行く幸くんに、肩を落とす。
…ゴット座。
多分晴翔もいるし、今は会いたくない。
「…なんだろう?」
「さぁ?」
2人は人が多くなっているあたりが気になるみたいだけど、ゴット座のストリートACTというのは通行人の言葉で容易に予想できた。
「クリスティーヌ……
闇に閉ざされた私の世界のただ一つの光」
「去れ!ファントム!お前の世界は闇の底だけだ」
ほら、やっぱり晴翔。丞さんも。
「……お嬢さん、お手を」
ファンサまでしてる。
…演技はうまいんだ。
「うわー…」
「ねぇ、2人ともあっちに、」
いい意味でも悪い意味でも目が惹かれちゃう演技だけど、私みんなのお芝居に比べたら、胸が躍らない。
「かっこいい……少女漫画の王子様みたいだ」
ねぇ、だからあっちに行こう?
「ああまでして媚び売らなきゃいけないのか」
「幸くんってば。聞こえちゃうよ」
晴翔に気づかれちゃう。
「ねぇ、今、この辺から悪口聞こえたんだけど……って、」
ばっちりと晴翔と目が合う。
幸くんは、喧嘩を売るように晴翔に向かう。
…これ、監督にバレたら怒られる?
「気のせいじゃない」
「何このチラシ。どこの劇団だよ?」
「ふーん、MANKAIカンパニー?全然知らなぁい。弱小の癖に何イキがってんの?」
「別に。あれだけ人気の劇団でも必死で客に媚び売らなきゃいけないんだって感心してたんだけど」
「2人とも、みんな見てるよ、やめよーよ」
「あぁ!?」
だめだ、2人とも頭に血が昇ってる。
「おい、晴翔」