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3月9日  【A3】

第11章 染井吉野


 ぐいっ

 っと口元にある手をどかして、肩のあたりから首元に触った髪の毛を感じながら、確信を持って私にしてるんだろうけど…

 「タチの悪い悪戯。人違いだったら、完全にアウトだよ…至さん」
 「さっきのガタイのいい男だれ?」
 「未来の」
 「旦那とかいう俺よりタチの悪い冗談辞めてね、芽李の夫で咲也の義兄になるのは、俺って決まってるから」

 ぎゅーっと、腕の力が強まる。

 「きゃーって叫んでいい?」
 「却下。妻の浮気を見て、叫びたいのは俺」
 「至さんの妻になった覚えないんだけど」
 「ひどい」
 「だって暑いんだもん、夏だよ今」
 「どうにかして冬になる特殊ルートない?」
 「ないかな、夏も秋も舞台みたいもん。しかもそんなに早く冬が来たら」

 あっという間に、みんなといられなくなっちゃう…

 「まだ至さんと居たいし」
 「何それ?」
 「こっちの話。そしてさっきのは、夏組の写真撮ってくれた学生さん」
 「写真家とのロマンス?」
 「なんでそうなるかな。…ご飯ご馳走になっただけ。美味しい唐揚げ食べてきた。レシピ聞いたから、至さんにも作ってあげるね」
 「…男の家で二人でご飯食べてきたってこと?」

 なんか、今日の至さんめんどくさいな。

 「違うよ、弟くん達も居たから」
 「男しかいないとこで?」
 「なに、どうしたの至さん」
 「別に?少し引っ掛けてきただけ」

 なるほど、ほろ酔い。…珍しい。

 「会社の付き合い?」
 「うん、今日ゲームの推しのイベント最終日だったのに、部長のせいで、どうしても顔出さなきゃいけなくて…腹痛いって抜けてきたけど。最悪、ガチャはドブだし、NEOって奴はしつこいし。ランキング抜かれて、やる気出ないとこで嫁の浮気現場に遭遇だし」

 ブツブツと言いながら腕を離さない至さんを、なんとかひきづりながら、寮までの道を歩く。

 「そろそろ離して?」
 「ヤダ、ムリ。芽李はとりあえず、至さんを今すぐ甘やかして」
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