第11章 染井吉野
ぐいっ
っと口元にある手をどかして、肩のあたりから首元に触った髪の毛を感じながら、確信を持って私にしてるんだろうけど…
「タチの悪い悪戯。人違いだったら、完全にアウトだよ…至さん」
「さっきのガタイのいい男だれ?」
「未来の」
「旦那とかいう俺よりタチの悪い冗談辞めてね、芽李の夫で咲也の義兄になるのは、俺って決まってるから」
ぎゅーっと、腕の力が強まる。
「きゃーって叫んでいい?」
「却下。妻の浮気を見て、叫びたいのは俺」
「至さんの妻になった覚えないんだけど」
「ひどい」
「だって暑いんだもん、夏だよ今」
「どうにかして冬になる特殊ルートない?」
「ないかな、夏も秋も舞台みたいもん。しかもそんなに早く冬が来たら」
あっという間に、みんなといられなくなっちゃう…
「まだ至さんと居たいし」
「何それ?」
「こっちの話。そしてさっきのは、夏組の写真撮ってくれた学生さん」
「写真家とのロマンス?」
「なんでそうなるかな。…ご飯ご馳走になっただけ。美味しい唐揚げ食べてきた。レシピ聞いたから、至さんにも作ってあげるね」
「…男の家で二人でご飯食べてきたってこと?」
なんか、今日の至さんめんどくさいな。
「違うよ、弟くん達も居たから」
「男しかいないとこで?」
「なに、どうしたの至さん」
「別に?少し引っ掛けてきただけ」
なるほど、ほろ酔い。…珍しい。
「会社の付き合い?」
「うん、今日ゲームの推しのイベント最終日だったのに、部長のせいで、どうしても顔出さなきゃいけなくて…腹痛いって抜けてきたけど。最悪、ガチャはドブだし、NEOって奴はしつこいし。ランキング抜かれて、やる気出ないとこで嫁の浮気現場に遭遇だし」
ブツブツと言いながら腕を離さない至さんを、なんとかひきづりながら、寮までの道を歩く。
「そろそろ離して?」
「ヤダ、ムリ。芽李はとりあえず、至さんを今すぐ甘やかして」