第11章 染井吉野
「お芝居、興味あるんでしょう?」
「まぁ、」
「弟くん達には、申し訳ないんだけど…舞台映えもして、こんなに素敵な写真も撮れて、こんなに美味しいご飯も作れるし、カンパニーに、臣くんがほしい。
きっと臣くんは、幸くんやカズくんの力になってくれる。
優しいから、みんなに頼りにされると思う…だから、秋組のオーディション、監督に頼まれたら受けてほしい」
「…そしたら、芽李さんの悩みも少し楽になるのか?」
ぐっと、服の裾を掴む。
「…うん。心残りがなくなるから、」
「わかった」
私がやれることは、臣くんの特技で。
寮母としていられなくなったら、臣くんみたいな人が必要でしょう?
「ありがとう、安心した」
「…そうか」
時計はそろそろ、22時を指していて…
「そろそろ、お暇しようかな」
「もうそんな時間か。…送るよ」
「ううん、ありがとう。大丈夫だよ」
「けど、」
「私、本当に大丈夫だから。写真、ありがとう。恥ずかしいけど、臣くんに撮ってもらってとっても嬉しかったから、コレ、私の宝物になったよ、」
「…そうか」
「弟くん達によろしくね」
玄関を出てやっぱり少し心配だからと、買い物ついでに途中のコンビニまで送ってくれるというのに甘えて、買い物があるならと、一緒に歩く。
「ありがとう、臣くん。今日はほんとに」
「あぁ、また遊びにきてくれ。弟達も喜ぶ」
「うん」
夜だというのに、夏だからまだ暑い。
「あ、蛍飛んでる」
「本当だな」
「久しぶりに見た」
そんな会話をしていると、あっという間にコンビニに着いて。
「じゃあ、ここで」
「本当に、送っていかなくていいのか?」
「うん、大丈夫。またね、臣くん」
「あぁ。また」
臣くんと別れて、暗い道を歩く。
まぁでも、星があるから、怖くはないな。
北海道に比べたら少ないけど…
もうすぐ帰らないといけない故郷に思いを馳せる。
この空も後何回みれるんだろう。
約半年だから、もう少しは見てられるかな?
そんなことを思ってたら、しばらく歩いたところで、ぐいっと腕を引かれバックハグされるような形で、口を塞がれる。
臣くんに、最後まで送って貰えばよかったと思うのと同時に、妙に落ち着いてたのは、知ってる香水の匂いだったから。