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3月9日  【A3】

第10章 大島桜


 「はいはい、みんな、ちゅーもーく!」

 夏組のみんながお風呂から上がって、そう言ったカズくんの手にあるのはビデオデッキだった。

 「なに?」
 「どうしたの?」
 「じゃーじゃじゃーん!」

 ビデオデッキに馴染みのないみんなは、あまりピンときてないみたいだ。

 それもそっか、今は、円盤が主流だもんね。

 なんて思いながら、そのやりとりを見ている。

 「あ!それは……!」

 いづみちゃんや、支配人だけがそれを見てビデオデッキだとわかっていて、なんだかノスタルジックだ。

 「8ミリビデオデッキ〜!」
 「あ、もしかして、この間の夏組のビデオテープの!?」
 「ういうい。オレの友達でこういうの集めてる奴がいてさ、貸してもらった!」
 「へー。これがビデオ?」
 「なんだかレトロでいいね。」

 レトロか…。

 「すけっち、ビデオのセットよろ!」
 「はい!」
 「じゃ、電気消すよ。」

 暗くなった部屋に、テレビの灯りがやけに映える。

 「そんじゃ、スタート!」

 そう言って、私の隣に座ったカズ君。

 「あ!これ、稽古場じゃね!?」

 …ほんとだ。

 「今も昔のまんまだね」
 「懐かしい…。」

 映し出された映像の奥で、私は学生服の男の子だけが気になって。

 「あれ?この人……。」
 「初代の監督か?」

 みんなは違うのかな。

 「なんか、この人監督に似てない?」

 ゆき君の指摘にみんなの視線が監督に向く。

 「お父さんだ…」
 「え!?カントクちゃんのパピー?!」
 「親子二代で監督やってんだ。」

 いいな…、優しそうなお父さんで。

 「え?」

 かず君と目が合った時、画面に集中していた天馬くんが言う。

 「……やっぱり、うまいな。」
 「面白いし。」
 「うん、支配人が言ってた初代夏組の良さがわかる。」

 そっか…。
 支配人や左京さん達が見ていた景色は、これだったんだ。
 取り戻したくなる気持ちがよくわかる。

 「……はい」

 そんな中でがさごそって音がして、三角くんが監督に三角定規を差し出した。

 「さんかくあげるから、泣かないで」

 三角くんの優しさが、今日は監督に向いてる…

 チラッと視線に入って、どうしてそんなこと思ったのか自分でもわからずに、それを見ていた。

 「…ありがとう」
 「えへへ〜」
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