第10章 大島桜
「これが夏組か…」
誰からともなく呟いた言葉に反応するように、懐古するように、
支配人は目元を抑えながら言った。
「…見ている人にたくさんの笑顔と元気を与える、胸躍るコメディが夏組のウリでした。」
いつも笑顔の支配人が、そんな顔するなんて。
でも、私が来るまで1人で、誰もいない寮で何年も何年も耐えていたんだもんな…。
自分と重なる部分を見つけたような気がして、胸が痛む。
…だけど、初代夏組か。
稽古だけでも圧巻だった。
そう考えると、たしかに今の夏組には伸びしろだらけだ。
「…でも、この人たちみんないなくなっちゃったわけでしょ。」
ゆき君の言葉がせつなくて、
「こんなに楽しそうにお芝居してるのに。」
「なんか、そう考えてみると、さびしーっていうか。」
「しんみり〜?」
始まったばかりで、終わりを考えるのは嫌だな…。
そう思った時、俯いた視線の先で、オレンジ色の髪がさらっと揺れた。
「…オレたちはそうならないだろ」
暗闇を照らすような、芯のある天馬くんの声にみんなが顔を上げる。
「テンテン…」
ピンと伸びた背筋に、やっぱり天馬くんはすごいな…なんて思って。
「…ま、千秋楽が埋まらなければ解散だけどな。」
戯けたように言ったけど、天馬くんがならないっていうなら、きっと本当に大丈夫そうな気がして。
「オレもそうならないと思うよ、テンテン。」
「オレも〜」
「ま、ならないんじゃない」
「うん、大丈夫だよ!」
そんな天馬くんにつられるようにして言った、みんなの言葉に希望を感じて。
「ねぇ」
「ん?」
「どうしたの、芽李さん」
「お願い、あるんだけど」
「なんだよ?」
「みんなはずっと、……その、舞台の上で、…えっと、」
「…………」
「あー、ごめん、うまくいえないや。ちゃんとまとまってから言うね。飲み物持ってくる」
酷く恥ずかしくなって、立ちあがろうとした時、ぐいっと腕をひかれて。
「最後まで言えよ」
天馬くんがそういったけど、
"どこにいても見失わないように、ずっと輝いていてほしい"なんて、流石に言えないや…、、
「最期まで演じてて、」
「…何当たり前なこと言ってるんだよ。」
「だから、まとまってないって言ったじゃん」