第10章 大島桜
だから逃げるようにして、話題を変えた。
「もうすぐ天鵞絨駅みたいだね、」
最近こんなのばっかりだ。
逃げてばっかり…。
「あるかな、カレーパン」
ね、だけどさ?
真澄くんは興味ないでしょ?
彼が何も言わないことをいいことに、それを都合よくとらえて。
天鵞絨駅に電車が止まって、人混みに流されるように二人でそこに降りて…。
「ねぇ、」
このタイミングで、何を言うの?
どんな話を振るの?
「なに?」
「最近のアンタなんか変。何隠してるの」
それはこっちのセリフ。
私を視界に入れてる、真澄くんの方が変だよ。
「…隠してないよ、」
真澄くんが見てるのは、私じゃないでしょ。
「嘘。アンタと目が合う回数減ったし。」
そんなことないはずだ。
「俺たち、家族でしょ」
「っ、」
"家族?"
ちがうよ、
みんなとは違う、
「…うよ、」
「何、はっきり言って」
「ちがうよ、真澄くん」
ねぇ、なんで悲しい目をするの?
「みんな、…みんなだけが家族なんだよ」
「どう言うこと」
「私を、家族にしないで、…重いんだよ、そういうの」
「うそ」
「嘘じゃないよ、だから、ゴメン。
寮に行ったら、ちゃんとするからさ?…あんまり、踏み込んで聞かないで。」
縋るように、キュッと彼の制服の袖口を掴む。
「お願い」
「…ずっと、そんなこと思ってたの」
「…うん、」
「至引き留めた時も?」
「…うん、」
「春組集めた時も?」
「…うん、…ごめんね。」
「ならどうして、芽李は、カンパニーにいるの?」
時間が止まったかのように思えた。
景色がセピアに染まったみたいに、急に色を無くした。
「踏み込まないでって、」
「これ以上は聞かないから」
こうなったら真澄くんが譲らないこと、短い間しかいないけどよく分かってた。
「支配人が、亀吉が、左京さんが、…あの場所に夢を見てたからだよ、」
「…」
「あんなに寂れた劇場でさ、あの三人だけが昔の記憶に縋って、立て直そうとして、見てられなかった。」