第10章 大島桜
万里くんと別れた後、電車に乗ろうと構内に入ろうとすれば、ポンと肩を叩かれた。
パッと振り向くと、意外な顔と目があった。
「今の、誰?」
「え?」
「アンタの男?アンタ、至が好きじゃなかったの?」
じっと見てくる紫の目に、ひゅっと喉が鳴った。
「真澄くん、」
「浮気?」
「違うよ、どっちも。今のはこの間迷子の時に助けてくれた子で、たまたま会ってお話ししてただけ。
至さんのことも、そういう好きじゃないよ。」
「ふーん…」
別段興味なさそうに言う真澄くんに、聞いたのはそっちのくせにと言いそうになって辞めた。
監督に盲目すぎて、それ以外不毛すぎる。
「ところで、こんなところで会うの珍しいね。」
「この駅の近くに、幻の美味しいカレーパン売ってる…ってテレビで言ってたから。」
目をキラキラさせて言う真澄くん。
「そっか、買えたの?」
「見てわからない?買えなかった」
がっくしと肩を下げて、アイツに食べさせてあげたかったのにって隣で落ち込んでる。
「そっか、残念。そうだ、天鵞絨駅前の新しいパン屋さんも美味しいって、お店のお客さんに聞いたことあるから、帰り寄ってみよっか?」
「いいの?」
「うん、今何時だっけ…あー、今から行ったらぎりぎりになっちゃうかも。急ごう?」
「うん、」
すっかり昼間のことを忘れて、
なんか楽しくて、
この時の私は気付かなかったけど、
きっと万里くんと、いつも通りの真澄くんのお陰だった…。
二人で天鵞絨駅までの電車に乗り込む。
「混んでるね」
「そう?」
「まぁ、帰宅ラッシュみたいだし…仕方ないか。」
携帯をいじってる真澄くんに、話しかけても意味ないだろうなって思いながら言ってみると、少しした後ポケットにそれをいれていた。
「アンタいつも電車?」
そんなこと聞いてくるなんて、まぁまた別段興味はないんだろうけど。
…と思いつつ、ちゃんと返事をする。
「歩いたり、車乗せてもらったりの方が多いかな。お金勿体ないじゃない。」
「どうして?」
「カンパニーの借金もまだまだ返済できてないしねぇ」
「ねぇ、ずっと聞きたかったんだけど、」
カンパニーの借金について言った時、心がぐっと重くなった。