• テキストサイズ

3月9日  【A3】

第10章 大島桜


 万里くんと別れた後、電車に乗ろうと構内に入ろうとすれば、ポンと肩を叩かれた。

 パッと振り向くと、意外な顔と目があった。

 「今の、誰?」
 「え?」
 「アンタの男?アンタ、至が好きじゃなかったの?」

 じっと見てくる紫の目に、ひゅっと喉が鳴った。

 「真澄くん、」
 「浮気?」
 「違うよ、どっちも。今のはこの間迷子の時に助けてくれた子で、たまたま会ってお話ししてただけ。
 至さんのことも、そういう好きじゃないよ。」
 「ふーん…」

 別段興味なさそうに言う真澄くんに、聞いたのはそっちのくせにと言いそうになって辞めた。
 監督に盲目すぎて、それ以外不毛すぎる。

 「ところで、こんなところで会うの珍しいね。」
 「この駅の近くに、幻の美味しいカレーパン売ってる…ってテレビで言ってたから。」

 目をキラキラさせて言う真澄くん。

 「そっか、買えたの?」
 「見てわからない?買えなかった」

 がっくしと肩を下げて、アイツに食べさせてあげたかったのにって隣で落ち込んでる。

 「そっか、残念。そうだ、天鵞絨駅前の新しいパン屋さんも美味しいって、お店のお客さんに聞いたことあるから、帰り寄ってみよっか?」
 「いいの?」
 「うん、今何時だっけ…あー、今から行ったらぎりぎりになっちゃうかも。急ごう?」
 「うん、」

 すっかり昼間のことを忘れて、

 なんか楽しくて、

 この時の私は気付かなかったけど、
 きっと万里くんと、いつも通りの真澄くんのお陰だった…。

 二人で天鵞絨駅までの電車に乗り込む。

 「混んでるね」
 「そう?」
 「まぁ、帰宅ラッシュみたいだし…仕方ないか。」

 携帯をいじってる真澄くんに、話しかけても意味ないだろうなって思いながら言ってみると、少しした後ポケットにそれをいれていた。

 「アンタいつも電車?」

 そんなこと聞いてくるなんて、まぁまた別段興味はないんだろうけど。
 …と思いつつ、ちゃんと返事をする。

 「歩いたり、車乗せてもらったりの方が多いかな。お金勿体ないじゃない。」
 「どうして?」
 「カンパニーの借金もまだまだ返済できてないしねぇ」
 「ねぇ、ずっと聞きたかったんだけど、」

 カンパニーの借金について言った時、心がぐっと重くなった。
 
/ 555ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp