第10章 大島桜
「じゃあ、万里ちゃん。これお給料ね」
帰り際、おばあちゃんから渡された封筒に、戸惑いながらも手を出した万里くん。
「え、…こんなに?」
「さぁさ、もうそろそろ暮れてきたし、芽李ちゃんも上がっていいわよ。」
「そんな、店長、」
「万里ちゃん、色つけた代わりにと言っちゃあなんだけど、芽李ちゃんのこと、お願いしてもいいかしら?うちの看板娘だから、くれぐれもお願いしたいのよ」
「ちょっと、なにを」
「いいっすよ。それと、コレ。ありがとうございます、俺の方こそ。」
「ちょっと万里くんまで?!」
「いいのよ、いいのよ。さ、芽李ちゃん、観念して荷物持ってきなさいな。」
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言われるがままに、追い出されるようにして出た職場。
「怒ってんの?」
どちらからともなく、口にしたのは万里くん。
「怒ってないよ、送ってくれてありがとう万里くん。…ただ、店長はああ言ってくれたけど、店の片付けとかまだあったし、まだやれることあったのにっておもって」
「へぇ、そんなもん?早く帰れてラッキーじゃん。」
その言葉に立ち止まってしまったのは、何も朝の気まずさだけではない。
「…芽李さん?」
「そーだね、らっきーかも。」
「あー、そだ。
これから暇なら、お茶でも行くか?臨時収入もあったし、奢ってやんよ。」
そう言ってチラつかせた封筒を見て、こんな若い子にまで気を使わせてしまうなんてと、少しだけ自分に嫌気が差す。
「万里くんみたいなかっこいい高校生の男の子と、いい歳してそんなことしてたらお巡りさんに捕まっちゃうよ。」
戯けて言って見せると、ワンレングスから覗く藍色の目が揺れた。
少しして、俯き加減に目が伏せられた後、また真剣な目で私を捕らえる。
「…ばーか。」
「大人に対してバカとはなによ。バカとは。」
「なんかしらねーけど、アンタ…なにか悩んでるんじゃねぇのか?俺ぐらいの距離感になら、言えることあるんじゃねぇの?」
「悩んでないのに、何も。」
「なら、昼間、誰と電話してたんだよ」
「あー…親戚。身内なんだから、何もないよ。というか、見ず知らずの大人の悩み、あったとしても聞くか?普通。」
「見ず知らずじゃねぇよ。アンタは、俺に」
「絆創膏、あげただけだよ。」