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3月9日  【A3】

第10章 大島桜


 「そっか、ならもう何も言わない」

 きっと酷いこと言ったのに、いつも通りの笑顔で優しい声で至さんが言う。

 「運転、ありがとうございました。プレゼン頑張ってください。」
 「うん、ありがとう。芽李も頑張って」

 ガチャンとドアをしめて、少しすると車が静かにまた走り出した。

 お店のシャッターを開けて、中に入る。

 「おはようございます」

 カンパニーとは関係のない、一日が始まる。







 

ーーーーーー
ーーー




 黙々と仕事をしてるとあっという間に時計の針がすすんで、外で聞こえた時報。

 「芽李ちゃん、そろそろお昼休憩にしましょうか」
 「はい、」

 店長に言われて、一度レジを閉める。

 「店長…わたし、ちょっと電話して来てもいいですか?」
 「もちろん、いいわよ。」
 「ありがとうございます、外、行って来ますね。」
 「お昼は?」
 「あー、どのくらいかかるか分からないので、今日は外で食べて来てもいいですか?」
 「わかったわ。行ってらっしゃい」
 「はい。行ってきます。午後の開店には間に合うように戻りますから」
 「はーい、気をつけてね」

 その言葉に会釈をして、近くの公園に向かう。



ーーーーーー
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 着信音がなったのは、ちょうど公園に着いた時。


ーぷるるるる


 「タイミングがいいんだか、悪いんだか」

 またもや非通知できた電話に、今度はすぐに通話ボタンを押した。

 
 「もしもし」


 木で影ができている、近くのベンチに座って携帯を耳に当てる。


 『芽李か。』
 「そうですけど、」
 『この間は、長く話せなかったからな。』
 「すみません。今日は1時間ほどでしたら、大丈夫です。
 それから、両親のことですよね。法事なら、まだのはずですけど。」
 『違うよ、そんなことじゃない。実は、君に折りいってお願いがあってね。』

 ぐっと拳を握る。

 『君は私たちに借りがあるだろう?』
 「…えっと、」
 『もちろん、君のご両親もね。』
 「何が言いたいんですか、」
 『戻ってきてほしいんだ、芽李に。聞いたところによると、今はこっちにはいないらしいね。』

 ギリっとくちびるを噛むと血の味が滲んだ。

 「出来ない、と言ったら?」




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