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3月9日  【A3】

第2章 河津桜


 当人たちは藁をも掴むような思いなんだろうけど。

 2人とも、やり方は違えどあの劇場を残したいっていう思いは、一緒なんだ。

 その真剣さに、胸を打たれたのは事実だった。

 分かりましたと頷こうとする前に、古市さんが咳払いをする。

 まだ何か、あるんだろうか。
 少しだけ身構える。

 身構えてばっかだな、私。

 「それから、ここのばぁさんは少しボケてるが腕は確かだ。

 劇団がダメでも、ここの花屋で学んだっていえばその道でやっていけるだろうしな」

 「え…?わたし、花屋になるんですか?」

 アホみたいに返してしまった私も私だけど、古市さんなりに私のこと考えてくれたってことか。

 あってまだそんなに経ってもないのに。

 「嫌なのか?女は好きだろう、花。」

 …キョトンとしてる。

 そんな顔が意外で。

 意外ってほど、私はこの人の事をまだ何も知らないけれど。

 知っていきたいと思ったのは、出会ってしまった2人の熱にアテられて、もうすでにMANKAIカンパニーに夢を見てしまった証拠なのかも知れない。

 …なんてさ、自分のちょろさに少しだけ悔しくなる。

 「組で世話になってる花屋なんだ。」

 「…なるほど。

 劇場が持ち直せれば古市さんはラッキーで、私は生活費が稼げて、組御用達のここの花屋が潰れなくて済んで、一石三鳥というわけですね。」

 「話が早くて助かる。」

 おかげで、私は花より団子派なんだとは言えなくなった。

 「貸し二つでいいですか?」
 「…」
 「劇場を建て直すのと、組で御用達のお花屋さんを支えるの」

 思えば、このときの私は随分と怖い者知らずで、世間もわかってなかったな。

 井の中の蛙大海を知らず、授業でだいぶ昔にならった諺がよぎる。

 「…あぁ」

 そんな生意気な私に、よく古市さんもうなづいてくれたもんだ。
 いつか、劇団を建て直すことができたら聞いてみたい。

 こんな小娘に頼ってくれた理由を。
 優しくしてくれた理由を。

 「じゃあ、私もお願いがあります」

 「なんだ」

 私の無理なお願いに、一度でもうなづいてくれた理由を。

 「見つけてほしい人がいるんです」
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