第2章 河津桜
当人たちは藁をも掴むような思いなんだろうけど。
2人とも、やり方は違えどあの劇場を残したいっていう思いは、一緒なんだ。
その真剣さに、胸を打たれたのは事実だった。
分かりましたと頷こうとする前に、古市さんが咳払いをする。
まだ何か、あるんだろうか。
少しだけ身構える。
身構えてばっかだな、私。
「それから、ここのばぁさんは少しボケてるが腕は確かだ。
劇団がダメでも、ここの花屋で学んだっていえばその道でやっていけるだろうしな」
「え…?わたし、花屋になるんですか?」
アホみたいに返してしまった私も私だけど、古市さんなりに私のこと考えてくれたってことか。
あってまだそんなに経ってもないのに。
「嫌なのか?女は好きだろう、花。」
…キョトンとしてる。
そんな顔が意外で。
意外ってほど、私はこの人の事をまだ何も知らないけれど。
知っていきたいと思ったのは、出会ってしまった2人の熱にアテられて、もうすでにMANKAIカンパニーに夢を見てしまった証拠なのかも知れない。
…なんてさ、自分のちょろさに少しだけ悔しくなる。
「組で世話になってる花屋なんだ。」
「…なるほど。
劇場が持ち直せれば古市さんはラッキーで、私は生活費が稼げて、組御用達のここの花屋が潰れなくて済んで、一石三鳥というわけですね。」
「話が早くて助かる。」
おかげで、私は花より団子派なんだとは言えなくなった。
「貸し二つでいいですか?」
「…」
「劇場を建て直すのと、組で御用達のお花屋さんを支えるの」
思えば、このときの私は随分と怖い者知らずで、世間もわかってなかったな。
井の中の蛙大海を知らず、授業でだいぶ昔にならった諺がよぎる。
「…あぁ」
そんな生意気な私に、よく古市さんもうなづいてくれたもんだ。
いつか、劇団を建て直すことができたら聞いてみたい。
こんな小娘に頼ってくれた理由を。
優しくしてくれた理由を。
「じゃあ、私もお願いがあります」
「なんだ」
私の無理なお願いに、一度でもうなづいてくれた理由を。
「見つけてほしい人がいるんです」