第2章 河津桜
なんて、本当は…。
藁をも掴みたかったのは、私の方だった。
「ほぉ」
「せめて元気がどうかだけでも、知りたいんです」
私を忘れてても、
どこかで笑ってくれてたら、それだけでよかった。
「そいつの名は?」
組っていうなら、それなりの人脈だってあるんでしょう?
図々しくても、
すがれるものなら、縋ってでもその事実だけが知りたかった。
「佐久間、咲也。…私の弟です。
10年以上前の写真なんですけど、これ。」
私の大切なものを包み込むように、優しく写真を受け取ってくれたその手に、
「…わかった」
…と、
本州の広ささえ知らないような、そんな私に無理とさえ言わずうなづいてくれた、
そんな古市さんに少しだけ気持ちが軽くなったから。
…だから、精一杯。
寝床を借りる一宿一飯の恩義とは言わないけど、
私にできる事なら劇団のことでもこのお花屋さんのことも、きちんとやり遂げたいと思った。
古市さんと、松川さんと、
…それから私のために。
劇団を建て直すことが、実は弟に繋がるための手がかりになるんじゃないかと、
確信めいた何かが胸に芽吹いたから。
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…と、ここまでがこの話のプロローグだったりする。
この時はまだわからなかった
古市さんとの約束も、
MANKAIカンパニーのことも、
弟のことも、
古市さんの残してくれた猶予の中で、いい方向に向かう気がしてた。
2人に出会ったのも、
私がMANKAIカンパニーに辿り着いたのも、
このお花屋さんで働くのも、
あまりにも、淡々とすんなり決まったから。
きっと、
これだって運命だったんだって、
分かったような気がしてた。
だから、全部うまくいくって。
…。
私、多分いつまで経っても変わらないんだ。
今はできなくても、1年先の私ならきっとって。
純粋に信じてた。
信じてたのに…。
1年経ったところで変わらないって言う現実を、
平気で突きつけてくるのが、未来なんだ。
人生はそんなに甘くないって事、
…何度でも思い知るんだ。
だって
私の生きてる世界は、
いつだって私に優しくない。