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3月9日  【A3】

第2章 河津桜


 なんて、本当は…。

 藁をも掴みたかったのは、私の方だった。

 「ほぉ」
 「せめて元気がどうかだけでも、知りたいんです」

 私を忘れてても、

 どこかで笑ってくれてたら、それだけでよかった。

 
 「そいつの名は?」


 組っていうなら、それなりの人脈だってあるんでしょう?

 図々しくても、

 すがれるものなら、縋ってでもその事実だけが知りたかった。


 「佐久間、咲也。…私の弟です。

 10年以上前の写真なんですけど、これ。」

 私の大切なものを包み込むように、優しく写真を受け取ってくれたその手に、

 「…わかった」

 …と、

 本州の広ささえ知らないような、そんな私に無理とさえ言わずうなづいてくれた、

 そんな古市さんに少しだけ気持ちが軽くなったから。

 …だから、精一杯。

 寝床を借りる一宿一飯の恩義とは言わないけど、

 私にできる事なら劇団のことでもこのお花屋さんのことも、きちんとやり遂げたいと思った。

 古市さんと、松川さんと、

 …それから私のために。

 劇団を建て直すことが、実は弟に繋がるための手がかりになるんじゃないかと、

 確信めいた何かが胸に芽吹いたから。

 
 






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 …と、ここまでがこの話のプロローグだったりする。

 この時はまだわからなかった

 古市さんとの約束も、

 MANKAIカンパニーのことも、

 

 弟のことも、



 古市さんの残してくれた猶予の中で、いい方向に向かう気がしてた。


 2人に出会ったのも、

 私がMANKAIカンパニーに辿り着いたのも、

 このお花屋さんで働くのも、

 あまりにも、淡々とすんなり決まったから。

 きっと、

 これだって運命だったんだって、


 分かったような気がしてた。

 だから、全部うまくいくって。

 …。

 私、多分いつまで経っても変わらないんだ。

 今はできなくても、1年先の私ならきっとって。
 純粋に信じてた。

 信じてたのに…。

 1年経ったところで変わらないって言う現実を、
 平気で突きつけてくるのが、未来なんだ。

 人生はそんなに甘くないって事、

 …何度でも思い知るんだ。

 だって

 私の生きてる世界は、
 いつだって私に優しくない。
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