第10章 大島桜
「じゃあ、みんな一旦休憩!」
「はーい。」
ちょうどいいタイミングだったかもしれない。
「カントクちゃん!麦茶ないっぽいー。あぢー」
「え、ほんと?!あー、今持ってくる」
「必要ないんじゃ無い?ほら、」
「芽李さん!ありがとうございますっボク持ちますよ!」
「ありがとう、椋くん」
ジャグを運ぶと、それに群がるように集合した夏組のみんな。
「ごめんね、遅くなっちゃったかな?」
「そんなことないよ!助かったぁ。」
近くにいたいづみちゃんに声を掛ければ、にこやかにそんなふうに言ってくれた。
「どう、夏組の稽古順調?」
「うん、合宿が功を奏したみたい。」
「そっか、よかったぁ。」
「…芽李ちゃんは?」
「え?」
「え?あ!ほら!お盆とかあるでしょう?そろそろ。だから、お仕事忙しいのかなって」
「あ…うん。まぁ、うん。忙しい…かな。あ、でも大丈夫だよ!劇団のことは、みんなのお世話係はちゃんと、するし」
「そのことなんだけど、」
「あ、休憩終わるみたいだよ!私も、出勤しないとだから!
話の途中でごめん、後でちゃんときくね。よろしく、監督!
…みんなも頑張ってね!」
逃げるようにして稽古場を出ると、珍しくポケットに入れていた携帯電話が鳴った。
「…っ、」
また、非通知…。
「…。」
みしっと、携帯から音がしてそれだけ強く握っていたことに気付く。
「仕事だし、しかたない」
出ないための理由を決めた時、ちょうど良く着信が止まった。
またその音が聞こえないように、カチッとマナーモードにすれば音は聞こえなくなった。
「…ぃ」
至さんの声が聞こえて、まさかと思ってパッと顔を上げる。
「芽李?お前どうしたの、顔色悪いけど」
割れ物に触るように、優しく頬に伸びた細く長い指が痛くて。
「…ナイ、」
「え?」
心配してくれてるのは、その真剣な目でわかる。
だけど、触れないでほしい。
「かんけい、ないよ。」
目を合わせるのがしんどくて、俯いてしまったけど。
「劇団には関係ないから。心配しなくてへーき。
監督さんに用?なら、今稽古始まったばかりだから、もう少し待った方がいいんじゃないかな?」
言葉はちゃんと繋げられた筈だ。