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3月9日  【A3】

第10章 大島桜


 「じゃあ、みんな一旦休憩!」
 「はーい。」

 ちょうどいいタイミングだったかもしれない。

 「カントクちゃん!麦茶ないっぽいー。あぢー」
 「え、ほんと?!あー、今持ってくる」
 「必要ないんじゃ無い?ほら、」
 「芽李さん!ありがとうございますっボク持ちますよ!」
 「ありがとう、椋くん」

 ジャグを運ぶと、それに群がるように集合した夏組のみんな。

 「ごめんね、遅くなっちゃったかな?」
 「そんなことないよ!助かったぁ。」

 近くにいたいづみちゃんに声を掛ければ、にこやかにそんなふうに言ってくれた。

 「どう、夏組の稽古順調?」
 「うん、合宿が功を奏したみたい。」
 「そっか、よかったぁ。」
 「…芽李ちゃんは?」
 「え?」
 「え?あ!ほら!お盆とかあるでしょう?そろそろ。だから、お仕事忙しいのかなって」
 「あ…うん。まぁ、うん。忙しい…かな。あ、でも大丈夫だよ!劇団のことは、みんなのお世話係はちゃんと、するし」
 「そのことなんだけど、」
 「あ、休憩終わるみたいだよ!私も、出勤しないとだから!
 話の途中でごめん、後でちゃんときくね。よろしく、監督!

…みんなも頑張ってね!」

 逃げるようにして稽古場を出ると、珍しくポケットに入れていた携帯電話が鳴った。

 「…っ、」

 また、非通知…。

 「…。」

 みしっと、携帯から音がしてそれだけ強く握っていたことに気付く。

 「仕事だし、しかたない」

 出ないための理由を決めた時、ちょうど良く着信が止まった。

 またその音が聞こえないように、カチッとマナーモードにすれば音は聞こえなくなった。

 「…ぃ」

 至さんの声が聞こえて、まさかと思ってパッと顔を上げる。

 「芽李?お前どうしたの、顔色悪いけど」

 割れ物に触るように、優しく頬に伸びた細く長い指が痛くて。

 「…ナイ、」
 「え?」

 心配してくれてるのは、その真剣な目でわかる。
 だけど、触れないでほしい。

 「かんけい、ないよ。」

 目を合わせるのがしんどくて、俯いてしまったけど。
 
 「劇団には関係ないから。心配しなくてへーき。
 監督さんに用?なら、今稽古始まったばかりだから、もう少し待った方がいいんじゃないかな?」

 言葉はちゃんと繋げられた筈だ。
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