第10章 大島桜
パチンとウインクをして、バタバタと出ていったカズくんにみんなが続く。
朝ごはんの用意がおわったら、朝練にも顔を出さないと。
休憩までには麦茶持ってかないと…
そう言えば忘れてたと、ジャグに麦茶のパックを入れてお湯で出したあと、水で薄めて氷をいれる。
「あとでもってこ、」
これ、こんなに重かったっけ?
…まぁ、いっか。
ーーー
ーー
冷蔵庫の食材が、ほぼ無くなった。
代わりにできた料理たちは、今日の夜まで持ちそうなくらいの品数になってしまった。
「わぉ、ずいぶんはりきったね。」
後ろから聞こえてきた声に振り向けば、スーツに身を包んだ至さん。
「おはようございます、至さん!」
振り向くまでに、口角を上げて元気よく挨拶をする。
…いつもの私、こんな感じ?
「夏組と春組への愛の喝ですよ。寮母なんで、私!いっぱいたべてもらわないと」
じと目で私を探るような顔をする至さん。
「本当は?」
その目にも、言葉にも何も感じない。
「…食材が中途半端にあまってて、」
どうしてそんな目で見るの?
…私、おかしい?
「…なら、バイキング方式にしようと思ったら止まらなくなっちゃって。今日、ちょうどスーパーで特売日だしいっかな?って。」
…まただ、また切れた。
「…」
「…?」
至さんの目、綺麗だな、まつ毛長い。
「それならいいけど。あ、それより昨日のピザ、美味しかったよ。」
「あぁ、でしょ?自分でも、そう思ってました。今日のご飯も自信作…って、味見してなかった。」
そうだ、…いつもの私はちゃんと味見してる。
「え?」
至さんの顔が歪む。
どうして私たった少しの会話でこんな表情させちゃうんだろう?
「…」
「またピザ作りますね!」
ピザはいつもの作り方だったから、見た目で判断でもいいけど、さすがにこれはいつものレパートリーじゃないもんね。
味見しないと。
「至さんもする?って、朝ごはんになっちゃいますよね。」
「いや、みんなが起きてくるまで時間あるし、少しだけ貰う」