第10章 大島桜
「ずーっと考えてて、さっきの綴くんとのやりとりも聞いちゃって目があったからちょうどいいなって思って、」
俯いた後の笑顔は、嘘だってわかった。
「使わせてもらいました。」
今のは
"だれ?"
ねぇ、さく…
「今の演技だったってことか?」
「エチュードですよ、至さんの時にみんなでエチュードしたじゃないですか。」
口を開いたのは綴くんだった。
「お前なぁ、芽李さん本気で心配してたんだぞ?」
咲を諭すように言った。
ねぇ、さく…。
「すみません。"オレ"らしくなかったですよね?」
“私のせい"で、また終わっちゃうのかな…。
「芽李さんがオレをどう思って接してくれてるのかも最近よくわからなくて、行動してみたんです。」
「どういうこと?」
「押してダメなら引いてみろじゃないんですけど、一緒にいたら甘やかしてもらえるのはわかってたので、芽李さんに弟扱いされないように少し距離を取ったら、弟じゃないオレがわかるかなって。」
…"弟じゃない"
さく?
「じゃあ、距離を取ってたのって…」
「やきもちもあったのと、こう言う感情もお芝居に活かせるかなって…芽李さん!?」
ジワジワっと滲んで、視界がぼやけてく。
下を向くとぽたっと粒が落ちて、自分が何で泣いてるかもよくわからなくて…。
変なの、こんな気持ちになるなんてさ。
「さく、髪乾かさないと風邪ひいちゃうよ、…あと、至さんの部屋で春組のみんなでゲームとピザパーティーするって、みんな集まっててさ、2人だけだからあと行くんだよ」
「え、ちょ」
「監督にも、ピザ持ってってあげなきゃだから、」
悲しいのかな、嬉しいのかな、
仲直りできたのかな、
何で泣くのかな、私。
咲も綴くんもこまってんじゃん。
固まってしまった2人をよそに、ドアノブに手をかけたのと同じタイミングでガチャっとドアが開いた。
「おっと、」
「危ない。」
「メイ?」
3人の間を通り抜けて、自分の部屋に戻る。
「行っちゃったヨ」
「っ、、」
「咲也、足元見ないと落ちるぞ。」
「どうしちゃったんだよ、芽李さんも…」