第10章 大島桜
今すごく悲しい顔して入って行ったぁ…
「もう、あれ途中から聞いてて勘違いしたやつじゃないですか、完璧。」
「咲に嫌われた」
「アンタ、アイツのことになると本当いっぱつでポンコツになるな!ほら、早く行きますよ。」
「やだもう、至さんのせいだ」
「はいはい。にぃちゃんも行ってやるから、さっさとフォロー行きますよ」
綴お兄ちゃん…。
コクンとうなづく。
ートントン
「咲也ー、開けるぞー。」
返事はない。でも、鍵はかかってないみたい。
ドアを開け中を覗くと、こんもりとベットが盛り上がってた。
「咲也、ほら顔出せ。」
ベットに近づいて、綴くんが梯子に足をかける。
「嫌です」
「芽李さん、今ものすごく泣きそうな顔してるぞ」
「…っ、"おれの方が"泣きたい気分です」
「え、さく、佐久間くん」
「何でオレだけ佐久間くんって呼ぶんですか。」
「え、」
「この間、咲って呼んでくださいって言いました」
確かに、言われた。
「ごめん、咲って呼ぶから、」
「…」
何も、言ってくれなくなった。
私が名前でよばないから、ずっと悲しくさせてた?
「…"おれ"何か悪いことしました?」
さっきの聞かれてたんだ、やっぱり…。
「咲也それは違うぞ、芽李さんのさっきのは完全なる至さんへの八つ当たりだから。」
慌ててフォローに回る綴くん。
「…知ってます、聞いてたから」
その答えにポカンとしたのは私だけじゃない。
「ふ、ふふふ」
「急にどうした、咲也。頭でも打ったか?」
「咲?」
「いや、おかしくなっちゃって」
「確かに、だいぶおかしいけど」
パサっと、布団を取って起き上がった咲。
「やっぱり無理です、ちょっと拗ねてみたんですけど、自分でもなんかおかしくなっちゃって。」
「え、」
「天馬くんのおねぇちゃんは、"おれ"との家族ごっこ(エチュード)より楽しいですか?」
「さく、一体なんの話して…、」
こんな咲の顔、知らない…。
たった一瞬見せた表情。
あんな冷たい笑顔はじめて見た。
「咲也?お前、」
…綴くんからは見えてなかったのかな?