第9章 雛菊桜
稽古場に入ったのと同時に、休憩終わりのアラームが鳴る。
危ない危ない。
「みんな、紹介するね。
初代春組で今は芝居を教えてる鹿島雄三さん。」
テーブルの上に差し入れを置いて私もいつもの席に着く。
「春組も稽古してもらって、夏組も引き続き見てもらうことになったの」
「咲也が言ってたのはこいつのことか……」
咲…。
ぶんぶんと頭を振り、今は夏組に集中しないととモヤモヤを消す。
「それじゃあ、一旦通し稽古で見てもらおう」
「さて、お手並み拝見と行こうか」
そういえば私、なんだかんだちゃんと通し稽古見るの初めてかもしれない。
合宿の時もなんだかんだあって、ちゃんとはみれなかったし。
「…お前ら、気を引き締めてやれよ」
天馬くんの目に火が宿るような感じ。
「なんで?」
きっと感覚でわかるんだろうな、天馬くんは。
「いいから」
「…」
「は〜い」
幸くんにもその感じが伝わったのか、いつもとは違って反発してない。
「な、なんかドキドキするね」
「ま、今までどーりやろーよ!」
「はい、冒頭から!」
みんなが位置について、ふっと空気が変わる。
「"今宵も語って聞かせましょう。めくるめく千の物語のその一つ…"」
幸くんからはじまる物語の冒頭…。
…やっぱ、すごいな。
綴くんの台本。
引き込まれる、
雄三さんも、いづみちゃんも真剣な眼差しで、それに応えるかのように夏組のみんなも真剣な目をしてる。
ーーーー
ーー
「めでたしめでたし」
「ちょっとそれ私の役目!」
その後、シェヘラザードとアリババの掛け合いがあって、…終わり。
「…。」
「…どうでしょう?」
その間、こっちまで緊張してしまう。
「まぁ、春組よりかは多少ましか。」