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3月9日  【A3】

第9章 雛菊桜


 「へぇー、んじゃあー、味見程度に貰おうかな。」

 パタンと冷蔵庫の戸をしめて、にこって笑った至さんが可愛くて笑ってしまう。

 「ふっ、」
 「なんだよ」

 不貞腐れたってイケメンなんだよなぁ。

 「いや?優しいなぁって思って。」
 「その顔、馬鹿にしてる?」
 「いえいえ、至さんにコーヒー似合うなぁって思って、ふふ、」
 「まぁ、いいけど。お手並み拝見と行こうか。」

 カウンター席に座って足を組んでも、キャラクターもののスリッパにいつものスカジャン、それからその前髪じゃ…と思ってもそこはさすが至さん。

 様にしかならないんだよな…。

 コトッと目の前に置く。

 「いただきます。……あ、飲みやすい」
 「よかったです。引き留めてごめんね、ちょうど余っちゃってたから、助かりました」
 「んーん、芽李とも話せたし。」

 爽やかに笑った至さんを見て、何かの商売になりそうだと思った。

 「…至さんの前世って、ホストか何かですか?」
 「真剣な顔で何を言う。まぁ、芽李専属ならやってあげてもいいよ、俺のためにドンペリ入れて」
 「至さんにお酒入れるなら、その分で咲にナポリタン貢ぎますよ。」

 言った後に後悔。咲の名前呼んだら色々思い出した。
 少し、後回しにしちゃってたこと。

 「出たよ、弟贔屓。」
 「…そーでもしないと、コミュニケーション取れないんですよ。情けないことに。」
 「え、まだ仲直りしてなかったの?」
 「というか、避けられてる?話してはくれるんですけど、前みたいに続かなくて。理由もわからないし、聞くに聞けなくて。
 …って、そろそろ夏組休憩終わりだから、行かないと」

 落ち込む前に、どうにかしないと。

 「ふーん…。まぁ、咲也も何かあるんだろうね。話ならいつでも聞いてあげるから、夜食にピザお願いできる?」

 至さんの優しさ、沁みるな。
 とっておきのやつ、作ってあげなきゃ。

 「ふ、…わかりました。終わってからでいいですか?」
 「もちろん、じゃあ俺部屋に戻るね。」
 「はい。」

 至さんの飲み終えたコップは後で洗おう。


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