第9章 雛菊桜
「へぇー、んじゃあー、味見程度に貰おうかな。」
パタンと冷蔵庫の戸をしめて、にこって笑った至さんが可愛くて笑ってしまう。
「ふっ、」
「なんだよ」
不貞腐れたってイケメンなんだよなぁ。
「いや?優しいなぁって思って。」
「その顔、馬鹿にしてる?」
「いえいえ、至さんにコーヒー似合うなぁって思って、ふふ、」
「まぁ、いいけど。お手並み拝見と行こうか。」
カウンター席に座って足を組んでも、キャラクターもののスリッパにいつものスカジャン、それからその前髪じゃ…と思ってもそこはさすが至さん。
様にしかならないんだよな…。
コトッと目の前に置く。
「いただきます。……あ、飲みやすい」
「よかったです。引き留めてごめんね、ちょうど余っちゃってたから、助かりました」
「んーん、芽李とも話せたし。」
爽やかに笑った至さんを見て、何かの商売になりそうだと思った。
「…至さんの前世って、ホストか何かですか?」
「真剣な顔で何を言う。まぁ、芽李専属ならやってあげてもいいよ、俺のためにドンペリ入れて」
「至さんにお酒入れるなら、その分で咲にナポリタン貢ぎますよ。」
言った後に後悔。咲の名前呼んだら色々思い出した。
少し、後回しにしちゃってたこと。
「出たよ、弟贔屓。」
「…そーでもしないと、コミュニケーション取れないんですよ。情けないことに。」
「え、まだ仲直りしてなかったの?」
「というか、避けられてる?話してはくれるんですけど、前みたいに続かなくて。理由もわからないし、聞くに聞けなくて。
…って、そろそろ夏組休憩終わりだから、行かないと」
落ち込む前に、どうにかしないと。
「ふーん…。まぁ、咲也も何かあるんだろうね。話ならいつでも聞いてあげるから、夜食にピザお願いできる?」
至さんの優しさ、沁みるな。
とっておきのやつ、作ってあげなきゃ。
「ふ、…わかりました。終わってからでいいですか?」
「もちろん、じゃあ俺部屋に戻るね。」
「はい。」
至さんの飲み終えたコップは後で洗おう。