第9章 雛菊桜
合宿を終えて、団結した夏組。
私は少しだけこの日が楽しみだった。
「雄三さん、今日はよろしくお願いします」
「おう。すっかり寮母が板についたな。」
「はい!」
夜の稽古の前にあらかじめ雄三さんから連絡が入り、明日来てもらうことになったから出迎えて欲しいと頼まれたのは朝の事。
支配人は別件の仕事があるからと、それなら私がと引き受けた。
今日は雄三さんからの叱咤激励をもらう日だ。
「邪魔するぞ。」
「後で差し入れ持っていきますね。雄三さんコーヒーでいいですか?」
「あぁ、アイスで頼む」
「はい」
稽古場のドアを開ける。
「ああ、夏組始動したって?」
「雄三さん!来てくれたんですね!」
いづみちゃんをはじめ、みんなが一斉にこちらを向く。
「ちょうど時間ができたからな」
「雄三……?」
「誰、あのおっさん」
「ヤベー、ヤクザじゃね?」
「あのおじさん、どこかで見たことある〜」
好きかって言う夏組のみんなに、当初の春組を思い出す。
「ふふ、いづみちゃん、私ちょっと抜けるね」
コクンとうなづいたのを見て、私は一旦退室。
「知り合いか?」
「さんかく仲間〜?」
「なんだそれ。」
みんなすごい元気だな、さすが夏組。
外まで聞こえる声に思わず笑いが溢れる。
ーーー
ーー
「芽李?」
「至さん、この時間に部屋から出てるの珍しいですね?」
キッチンに行って雄三さんのぶんのコーヒーと冷えた麦茶の追加を用意していると、ぴょこぴょこ髪を揺らしながらきたオフモードの至さん。
「ちょっと休憩、部屋の備蓄無くなっちゃったから」
ガチャガチャと数本のコーラを取り出そうとした彼と中途半端に余ったコーヒーを見て何気なく提案する。
「なるほど…あ、コーヒー飲みます?水出しコーヒー作って見たんですよ、この間テレビで特集してて」
そう言った後に、彼がお子ちゃま舌なことを思い出す。
コーラの方がいいよね、会社じゃないんだし。
真澄くんとかならともかく。