第2章 河津桜
デジャブだ。
鼻を摩る。
目の前に真っ黒が広がる。
古市さんの鍛えられてそうな、背中にぶつかったのだ。
背中の筋肉の硬さは、申し分ない。
…例えるならば、赤身の美味しい良い値段のする肉みたいだな。
そうそう、高校決まった時に大家さん夫婦がご馳走してくれたお肉みたいな…
また食べたいなぁ…
「おい」
「あ、はい。」
怒られるかも?
ぶつかったの、あやまらないと?
でも、急に止まったのは古市さんの方では?
と思いつつ、身構えて距離を取る。
「どうしてついてきた?」
「は?」
そっち?
ぶつかったほうじゃなくて、そっちね。
けど、着いてこいって言ったのは古市さんでは??
後ろを振り向かず聞いてくる古市さんに首を傾げていると、
呆れたようにため息をついてきたので空中を掴むように手を上に上げてにぎにぎしていると急に振り向いてくる。
「…何やってんだお前。」
「古市さんが何度もため息をつかれるので、幸せ逃げるなーと思いまして。
ハイ、両手出してくださいね」
「あ?」
「いきますよ、せーの。」
パチンと古市さんの手に私の手を当てるとまた眉間に皺を寄せている。
「あー、えっと…つまりこれはですね。
古市さんがため息で逃した幸せを集めたのでお返ししようかと。」
「…大丈夫か?」
あ、私の頭の心配本気で心配してらっしゃる。
「う…
禍々しい雰囲気をずっと纏ってらっしゃるので、ばを和ませようとした私の気持ちは汲んでくれないんですね。」
「はぁ………。」
「…ついてこいって言ったの古市さんじゃないですか。」
「あ?それでノコノコついてきたのか?」
「え?ダメでした?」
…あ、また呆れてる。
眉間に手を置いて、腕を組むのはこの人の癖なのかな。
ぼーっと、観察してると予想外の一言がくる。
「お前に仕事、紹介してやる」
「泡まみれですか?」
「は?」
顔先行の"は?"が飛んでくる。
「泡まみれはちょっと…」
「はぁ…」
呆れたようなため息に、
「じゃあ、取り立てのお手伝いですか??」
我ながら怖いもの知らずというか、なんと言うか。