第2章 河津桜
「佐久間芽李と申します!」
ペコリと頭を下げ、パッと顔をあげる。
「実はいろいろありまして」
と、見ず知らずのヤクザに詳細は省くが、テキパキと返す。
「少し前から雑用係と言いますか、支配人世話係のようなオウムの飼育員のような仕事をしております。
どうぞ、よろしくお願いします!」
我ながらちゃんとした挨拶が出来たんじゃないかと思う。
「そうか。おい、松川。」
私から視線を外し、松川さんに視線を移す。
「はいぃー」
「この劇団に人を雇う金なんかどこにあるんだ。
そんなものに使う余裕があるなら、さっさと借金のへんさ」
人ひとりヤレるんじゃないかと思うくらいの視線を向けられた松川さんが、少しだけ不憫に感じて助け舟を出す。
「いただいてませんよ」
助け舟って言っても、事実だけど。
「あ?」
…私まで睨まれた。
「借金があるならそちらに当てた方がいいかと、お断りしたんです。
貯金もあるからどうにかなるかなと思いまして」
数日前のやりとりを思い出す。
「「ねー?」」
松川さんと示し合わせたようにコテンと首を傾げるが、可愛さアピール効かなかったみたいだ。
だってほら、古市さんの眉間皺が深くなってく。
え、やばくね?
「おい」
「…佐久間といったか?」
「はい。」
私と古市さんの顔を見比べてアワアワしてる松川さん。
「ちょっと顔かせ」
なんだろうと思いつつ、
「あ、はい。松川さん、私が帰るまでそこ片しといてくださいよ」
古市さんを追いかける前に、松川さんに声をかけた。
だって、そろそろ片付けないと明日になってしまうし…。
松川さんに後ろ髪引かれるようなおもいだけど、黒い背広を追う。
足の長い古市さんのせいで、私もなかなかのスピードで着いてく。
この人、私に着いてくるように言いながら、全然振り向かないじゃん。
っていうか、なんのようなんだろう?
サラサラの金髪を見ながら、ヤクザの本質を考える。
ヤクザの本質ってなんだ?
松川さん、ヤクザって言いながらヤケに親しかったけど、ほんとはいい人だったりする?
なんかで読んだことあるかも知れない、こう言う職業の人達って根は優しいみたいな奴。
それって何基準なんだろう?
ーぼふっ