第9章 雛菊桜
しおらしい態度のくせに、横暴なんだよなぁ。
「はいはい。どうしたの、てんまくんは。」
荷物を運び終えて、とりあえず座る。
ぽんぽんと隣に座るよう促せば、少々渋りながらも座った。
「…」
「稽古は?」
「…」
「まぁ、天馬くんいつも真面目に頑張ってるからね。ちょっとくらい休憩が必要かな。」
「酷いこと、言ったかも…しれない」
ポツリポツリと吐き出した気持ちは、多分今まで知らなかった気持ちなんだと思う。
「そっか。」
「…八つ当たりして、…悪かったな」
「ま、天馬くんのおねーちゃんだしね?」
「…」
茶化すように言うと、ドアが開いた。
ーがちゃっ
「あ!ここにいたんだ!」
「いづみちゃん、ごめんね。挨拶もしないで。」
「んーん、いーのいーの。」
いづみちゃんの手にあったお皿にはカレーが盛られていて、こんな時にもカレーなのかと思わずクスッとしてしまった。
「じゃあ、中のみんなにも挨拶してこないとな」
「みんな喜ぶと思うよ。」
「そーかな、まぁ行ってくる。じゃあね、天馬くん中で待ってるから」
「ん。」
ドアの中から香って来たスパイスの匂いと、あったかい電気の色。
それから、夏組の子たちの声。
リビングのドアを開けると、みんなが一斉に振り向く。
「アンタ、どこで道草してきたの。」
幸くんの辛辣な第一声に、彼らしいと思う。
「ちょっとそこまで。」
「三角探してきたぁ?」
「三角、探してないけど持って来たよ。じゃーん、スイカのアイス。」
「わぁー!種の部分チョコで美味しいですよね」
「やべぇー!久々に見たー!なつかしー!一緒に写真撮って、インステにあげちゃおー!」
少し元気がないように見受けられるものの、元気いっぱいでいてくれるのは、きっと彼らなりの気遣いなんだろうな。
「ふふ。解けないうちに食べちゃって。残りの分は冷凍庫に入れとくから」
「はーい!」
それぞれがアイスを片手に、私が持って来たものを整理するのを手伝ってくれる。
「あ、ねぇ。これ何?」
「それは監督にって、真澄くんが」
「うげー、触らんどこ。」
「でー、こっちが綴くんで、こっちがー…」
「春組の奴らもたせすぎじゃない?」
「うわー、亀吉饅頭だぁ。とりあえずインステに上げるしかじゃーん」