第9章 雛菊桜
「本当にしてないですって、私が聞きたいくらいで」
「へぇ、…」
「信用してくださいって」
「咲也はうちの座長で、一緒にお芝居もしたしね。なんと言っても俺の子供だから。」
意地の悪い言葉にむすーっとすれば、ははっと笑ってくる。
「なんてね、芽李も俺のかわいー妻だもんね。」
「シトロンくんに言い付けます。浮気者」
「ちぇ、乗せられてくれないか。」
「至さんの車には乗せてもらってますけど、口車には乗りませんよー。」
「今すぐ降ろしてもいーんだぞ。」
「嘘です、至さん。運転ありがとうございます。」
「…まぁ、咲也のことは綴あたりがなんとかしてくれると思うし、俺たちはドライブデート楽しもうね?」
赤信号をいいことにこっちを向いて、ニコって笑う。
「デートではないです」
「連れないなー。しゃーない、道中長いし、ドライブスルーでもするか」
「デートでいいです、期間限定のアレ食べたいです!」
「まったく、ゲンキンな奴だな。りょーかい。CMのやつね。」
夏組の合宿所まではまだ少しかかる。
至さんの車では、聴きなれたゲーム音楽が流れていた。
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「とうちゃーく。」
「ありがとうございました。…顔出してく?」
「いや、ヘーキ。みんなによろしく言っておいてよ、こっちのことは綴がなんとかするから安心して、稽古手伝ってあげて」
「綴くん任せほどほどにね」
「…ふっ」
不敵な笑みと私を宿の前に降ろし、ブレーキランプを5回点滅させて…って、それ車じゃなくてバイクだし、そのネタが古いかもしれない。
「さてと………ひぃっ!?」
ふと、横を見ると暗闇で動いた影。
驚いてみれば、しょんぼりしている天馬くんだった。
「…アンタか。」
「こんなところで何してるの?」
「…いや、別に。なんでもない。」
「なんでもないなら、荷物運ぶの手伝ってよ」
「……」
「誘ったの天馬くんでしょ」
少し強引だったかもしれない。
半ば強制的に運ぶのを手伝わせる。
「なんで来たんだよ」
「だからさっきも言ったけど、君が来いって誘ってくれたんでしょ。」
「遅いんだよ、…バカ」
「え、急に辛辣じゃない?」
「アンタが早く来たら、こんなギスギスしなかった」