第9章 雛菊桜
「じゃあ、行ってくるね。」
一泊分の荷物を持って玄関に立つ。
一足先に昨日出発した夏組の後を追うように、私も合宿へと向かうべく追加の荷物も持っていく。
「待って。」
「真澄くん?」
「俺も持っていって、監督に必要なのは俺。」
「ある意味そうかもね、真澄は監督さんのセコムだし。」
澄ました顔でゲームをする至さんは、合宿所まで乗せてってくれるらしい。
「でも、真澄くん鞄に入らないし」
「監督のためにもコンパクトに」
「マスミ、これ見るネ。せかいいち、ビックなリュークネ」
「いや、それ某アニメの死神!世界一もなにも、あいつもともとでかいから!」
シトロンくんの携帯をずいっと至さんに押し付けて、
「お父さん、僕、コレ欲しい」
きゃるんとおねだりをする彼は、もともと顔がいいだけあって場所が場所なら事業として成り立ちそうな可愛さだ。
「わぉ、唐突の真澄のデレ。俺の息子かわいー。SSR級のかおしてるんだけど。誰ガチャ引いたの。」
「ワタシネ」
「さすが俺の妻」
「いや、そこ!っていうか、デカいバックパックだな?!」
至さんが押し付けられた携帯を綴くんが取り上げ、目に入った画像に思わず突っ込んでる。
「へぇ、日本製なら安心だね。っていうか、いい値段だね、やっぱり。」
大きさだけにそれなりの値段がするらしい。
「お父さんなら、俺のために余裕で買えちゃうでしょ?」
真澄くんとチラッと目が合うと、ニヤッとして言う至さん。
「確かに俺ならヨユーだし、真澄もコレなら入りそうだな。
…ポチるか。」
「ポチらんでいい!俺ならヨユーってのもムカつくからやめてください!全く、こんな大きいのに真澄が入っても監督は持てないだろ!」
「俺が監督を入れて運べば問題ない。学校もコレでいく」
「いや、洒落にならないから!」
ほんと、ポンポン突っ込むなぁ。
「おぉー」
「そこ感心しない!ったく、ほんと大丈夫かな、俺の胃」
感心ついでに拍手をしていると、目に入ったのはわちゃわちゃする皆んなと少し距離を置いている咲。
「芽李さんも、感心してないで、…って、」
私の目線の先を辿った綴くんも、咲に視線をうつす。
「咲也?どうしたんだよ」
「…っ、いや。なんでもないです、酒井さん、早…」