第9章 雛菊桜
「一歩間違えれば不審者。オレが通報しなくてよかったね」
「確かに。」
でも、多分幸くんじゃなかったら声かけてなかったよ。なんて、本人に言ったらもっと呆れられそう。
「でも、私の先見の目に間違いはなかった、ってことでしょ。」
「…」
…そうだと信じたい。
「運命って思ってるよ、あのとき幸くんに会えたのも。」
言葉を変えて伝えてみれば、それでなくても大きな瞳が開かれた。
「皇くんに無くてみんなにあるもの、みんなになくて皇くんにあるるもの。どっちにもあるもの。…良いものなはずなんだ。」
ものぐさな私は、ここで一気に伝えてしまおうと言葉をつなげる。
「みんなが切磋琢磨して、今しか感じられないものちゃんと感じて、良い関係作っていけたらいいよね。」
「ふーん…」
…あ、説教じみたかもしれない。
「って、ごめん。」
「どうしてあやまるの、」
「…やっぱりさ、みんなの年を越えて今の私がいるから、ついもどかしくて口出しちゃうんだよね。だから、こう言う考えもあるんだなぁ、で留めてもらえれば…」
と、恐る恐る言ってみるとすっかり、さっきの釣り上がってた目が柔らかくなってる気がして、…。
「ま、人生の先輩として聞いといてあげる。」
幸くんの方が上手だったかも。
「うん、ふふ。あ、そうだ。お風呂できてるし、もしお腹空いてたらおにぎりの残りもあるから、食べて良いからね」
「ありがと、芽李さん。もう寝るの?」
「うん、明日早いからね。」
「そっか、おやすみ。」
「おやすみなさい、幸くん。」
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幸くんと別れて部屋に戻ると、携帯を充電したままだったことに気づいて、何か連絡が入っていたらまずいと画面を開く。
その時非通知から着信が入っていたことに、気づいた。
その時急に、胸がざわついて。
どうしてだろう?
たった一度の着信にこんな気持ちになるのは…。
なんて、
劇団の旗揚げ公演のバタバタで、大切なことを忘れていたことに気づくのはもう少し後のこと…。
「用があったらまた連絡くるだろうし…。ふぁあ」
明日が早いといいつつ、結局いつもと変わらないくらいの時間になってしまったみたい…
布団に入った瞬間にゆっくりとまどろみ始めて、気づくと朝になっていた。