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3月9日  【A3】

第9章 雛菊桜


 「一歩間違えれば不審者。オレが通報しなくてよかったね」
 「確かに。」

 でも、多分幸くんじゃなかったら声かけてなかったよ。なんて、本人に言ったらもっと呆れられそう。

 「でも、私の先見の目に間違いはなかった、ってことでしょ。」
 「…」

 …そうだと信じたい。

 「運命って思ってるよ、あのとき幸くんに会えたのも。」

 言葉を変えて伝えてみれば、それでなくても大きな瞳が開かれた。

 「皇くんに無くてみんなにあるもの、みんなになくて皇くんにあるるもの。どっちにもあるもの。…良いものなはずなんだ。」

 ものぐさな私は、ここで一気に伝えてしまおうと言葉をつなげる。

 「みんなが切磋琢磨して、今しか感じられないものちゃんと感じて、良い関係作っていけたらいいよね。」
 「ふーん…」

 …あ、説教じみたかもしれない。

 「って、ごめん。」
 「どうしてあやまるの、」
 「…やっぱりさ、みんなの年を越えて今の私がいるから、ついもどかしくて口出しちゃうんだよね。だから、こう言う考えもあるんだなぁ、で留めてもらえれば…」

 と、恐る恐る言ってみるとすっかり、さっきの釣り上がってた目が柔らかくなってる気がして、…。

 「ま、人生の先輩として聞いといてあげる。」

 幸くんの方が上手だったかも。

 「うん、ふふ。あ、そうだ。お風呂できてるし、もしお腹空いてたらおにぎりの残りもあるから、食べて良いからね」
 「ありがと、芽李さん。もう寝るの?」
 「うん、明日早いからね。」
 「そっか、おやすみ。」
 「おやすみなさい、幸くん。」






ーーーーー
ーーー


 幸くんと別れて部屋に戻ると、携帯を充電したままだったことに気づいて、何か連絡が入っていたらまずいと画面を開く。

 その時非通知から着信が入っていたことに、気づいた。

 その時急に、胸がざわついて。

 どうしてだろう?
 たった一度の着信にこんな気持ちになるのは…。

 なんて、

 劇団の旗揚げ公演のバタバタで、大切なことを忘れていたことに気づくのはもう少し後のこと…。

 「用があったらまた連絡くるだろうし…。ふぁあ」

 明日が早いといいつつ、結局いつもと変わらないくらいの時間になってしまったみたい…

 布団に入った瞬間にゆっくりとまどろみ始めて、気づくと朝になっていた。
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