第8章 椿寒桜
「ただいまー。」
「おかえりー。」
玄関のドアを開けると珍しい組み合わせで、談話室へと向かおうとしていた至さんと真澄くんに出迎えられた。
「珍しい組み合わせだね」
「べつに。」
「監督に頼まれて、俺の事迎えにきてくれたの」
「そっか、優しいね。真澄くん」
ふんっと言いつつ、ふわっと雰囲気が柔らかくなる。
わかりやすくなったな、真澄くんも。
「そうだ。ご飯すぐつく…」
すぐ作ると言いかけて談話室のドアを開けようとすると、ふんわりスパイスの香りがする。
「あれ、いい匂い…」
「監督が俺のためにカレー作ってる」
「真澄のためだけじゃなくて、俺らのため。監督さん、ライム入れてたみたいだけど、」
「あ、…そっか。電源切ってたみたい。」
「芽李ちゃん、おかえりなさい。カレーもうすぐできるよ!」
「いづみちゃん、ありがとう。すぐ手伝うね。」
「うんっ」
ぽスッとソファの脇に邪魔にならないように荷物を置いて、エプロンをつけ、支度をする。
「ごめんね、いづみちゃんも忙しいのに」
「んーん、今日買い物に行ったら珍しいスパイスが売っててね!これは是非使わないとって、今日1日ワクワクしてたの!」
「そっかぁ」
目をキラキラさせて言ういづみちゃんは、いつもより少しだけ幼く見える。
「そういえば、綴くんは?」
「執筆中」
いづみちゃんを見つめるように、カウンターの正面に座っていた真澄くんが代わりに答える。
「夏組のミーティング、みんな主役やりたいって言ってね、」
「へぇ、意外」
「それで、どうしようって話だったんだけど。綴くんが、一旦任せてほしいって言ってくれて、そこからすぐ部屋に籠っちゃったんだよね。」
「そっかそっかぁ。」
サラダに使うレタスをちぎりながら、話を聞く。
「あれ?芽李さん、帰ってきてたんですね??」
ひょこっと現れた咲。
「ただいま、佐久間くん」
「…」
「?」
「おかえりなさいっ、です!」
…なんだ、今の間は。
そう思いつつサラダのドレッシングを作って、トッピングにしようとしていたタコの小さなお刺身をそれにくぐらせて、一連の流れであーんっと咲に餌付けする。
パクッとそれを口に含んで咀嚼する咲。
「どう?」