第8章 椿寒桜
「伏見さん、」
約半日をかけて行った取材も、もうそろそろ終わりらしい。
だんだんと傾いてきた日差しに、夏を感じる。
「はい?」
「いつか、私が今いる劇団の人たちの写真撮ってくれませんか。」
唐突に言葉に出せば、困ったように笑った彼。
「伏見さんが撮った写真で、アルバムを作って、私の宝物にしたいです。…なーんて、プロの人に贅沢なお願いしてしまいました。
すみません。」
「俺なんて、ただの学生のアルバイトですよ。」
「…じゃあ、それを夢にします」
「…ふ、わかりました。いつか叶えてみせますよ。」
少しの時間でこんなにも打ち解けたのは、伏見さんの人柄あってこそだ。
「そろそろ、お暇しますね。」
「え、もう?」
「そうよ、まだいいじゃないの。」
「また来ますから、それに。いい写真が撮れたので早く現像したいんです」
重そうな鞄を肩にかけて笑う。
「そうだ、せっかくだし花を買っていこうかな。なにか、おすすめありますか?」
「季節の花は、どれもおすすめだけど…芽李ちゃんはどれが似合うと思う?」
「え?似合うですか?…そうだな、んー」
たくさんの花がある中で、目に入ったのはカーネーション。
「カーネーションとかどうでしょう。」
「…じゃあ、カーネーションにします。」
ふっと笑って答えた彼に、とびっきりの一本をつつむ。
「どうしてカーネーションに?」
「…次に会えた時にお伝えします。」
「参ったな。また来ないと。」
「ふふ、はい。またお待ちしてます」
店を出た伏見さんの背中を見送る。
「素敵な方でしたね。」
「そうでしょう?お婿さんにどう?」
「またまた、彼は年下ですよ。」
「年下でも、おみちゃんなら、安心して芽李ちゃんを任せられるわ。」
「もー、お気遣いなく。弟とのこともあるし、…今のところは、」
言いかけて、頭をよぎったのはぴょこぴょこと動いた前髪。
「ふ、子供みたいな人達の面倒見なきゃいけないからお腹いっぱいです。」
「そう。」
目を細めたばあちゃんは、何かを見透かしたように笑った。
「いつかみんなのこと紹介しますね。」
…秋組と冬組が揃ったら。