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3月9日  【A3】

第8章 椿寒桜


 「そうでした!行かないと。
 酒井さん、行ってきますっ

 真澄くん、行こう」

 ニッコリと笑って真澄くんを連れて行った咲。
 今の顔かわいい、写真撮って待ち受けにすればよかった。

 「……」

 視線を感じてばっと見ると、ちょんまげをつけた至さんだった。

 「な、なんですか。じーっと見て」

 ちょんまげって言っても、お侍さんの方ではない。
 いつものたるちさんスタイルなのだ。

 「いや、なんでもない」

 …はて?

 「って、至さんいつまで部屋着なんですか。仕事行かないと。」

 高校生組が行ったあとだから、いつもの出勤時間より遅い気がするんだけど。

 「今日、有休使って休み。外せないイベがあって。いやー、有休に関していえば大人でよかったって思うよね。芽李こそ、大丈夫なの?」
 「あ、そろそろ行かないと。…はぁ。」

 仕事はいいんだ。でも、咲と夏組が気になって気になって…
 
 「わかりやすいため息。芽李さん、幸せ逃げますよ」

 冷蔵庫からコーラのデカいボトルを取り出して、なんかよくわかんないキャラのスリッパをパタパタ鳴らしながら私の後ろを通り過ぎてく。

 「迷信でしょ。そうだ、お昼食べるなら冷凍庫に冷凍ピザあるのでよかったら温めて食べてくださいね。」
 「りょーかい。ありがとう」

 綴くんも一旦部屋に戻っちゃったし…
 エプロンを外して、定位置に置く。
 カバンと携帯、財布も確認っと…。

 「いってきまーす。」

 静かになった談話室をぬけて、玄関に向かう。 

 じんわりと太陽の熱が増してく。
 今年の夏は暑くなりそうだ。

ーーーーーー
ーーーー

 「おばあちゃん、おはようございます」

 お店に入りながら言うと、部屋の中から店舗の方に出てきてくれたおばあちゃん。

 「あれまぁ、芽李ちゃん。おはよう」
 「ふふ。今日の注文分確認しますね!」

 ほんわかと笑ってくれたおばあちゃんに、こっちまで笑顔になる。

 「えーっと………。げ」
 「どうかした?」
 「あー、いや。なんでもないです。」

 ー…11時受け取り 神木坂 様

 久々に顔合わせることになるのか、晴翔と。
 キリキリと痛み出した胃に気づかないふりをしながら、外の鉢に水を与える。
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