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3月9日  【A3】

第8章 椿寒桜


 キッチンに着くと、私をゆっくりと下ろしてくれたけど生憎それどころじゃない。

 「……おにぎり!」

 シトロンくんがおにぎりを作ってくれてる。
 …って、おにぎりに負けた私?

 「吐きそう…」
 「ワタシのおにぎりどこネ!?代わりにメイがあるヨ」

 どっちかっていうと、いるだけど…
 もぐもぐタイムしてる三角くんに普通に

 「キミ、誰ダヨ?」

 そう聞いてる。

 「もぐもぐ………オレ、三角〜」

 みんなもやっと追いついたようで、駆け寄って来てくれた咲にぎゅっと抱きしめられる。

 ありゃ…

 「佐久間くん?」
 「…」

 え、無視…。

 てか、みんなスルーなのね。
 まぁいいんだけどね?

 「三角くん、どうして寮に住んでたの?」
 「行くところがないから〜」

 そう言った三角くんを劇団に誘ういづみちゃん。
 さすがです。
 流石なんだけどね…

 「佐久間くん、」

 ぽんぽんっとしてやっと離れる。

 「どうしたの、佐久間くん」
 「なんでもないです」
 「そ、そう。」

 ……変な咲。



ーーーーーー

ーーー



 ちなみにあれから、三角くんはそれからトントンと入団が決まり…

 「弟のくせにいつもつっかかってくる。」

 「弟?
 
 今更兄貴面か。ろくに帰っても来ないくせに偉そうにするな!

 親父の病気のことも、知らないくせに!」

 引っ越しを終えた土曜の初練習、耳が痛くなるセリフは初稽古のエチュードで三角くんと皇くんがやってる兄弟ものの設定の下だ。

 「親父の病気……?なんだよ、それ。」

 うまいな、2人とも…

 経験者の皇くんはともかく、三角くんは素人のはずだ。 
 役が乗り移ったみたいなその姿に息を呑むしかできない。

 「……お前には関係ない」

 私の弟が天馬くんじゃなく、咲でよかった。
 こんなふうに演技とはいえ、遮られたら息さえできないと思う。

 「関係ないわけないだろ!どういうことだよ!?

 …………悪かったよ。親父の病院、教えてくれ」
 「……車だすよ」
 「悪いな…」

 2人ともうまい、っていう言葉で片付けるのは勿体無い。なんていうか、引き込まれる演技だった。

 「はい、そこまで」

 いづみちゃんが止めるまで続いたエチュードはまるで現実のようだった。

 
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