第8章 椿寒桜
「オレのこと知らないとか、どこの田舎もんだよ。」
俳優と名乗った彼が、幸くんに対して言う。
幸くんも負けじと返してるけど。
でもさすが俳優さんなだけあって、舞台の上でも堂々としてる。
…隣が向坂くんだから、余計そう見えるのかもしれない。
「…皇天馬、高校2年。
役者としては15年……舞台経験はなし。」
「なし?一度も?」
「オレ、基本映画メインだから」
「かー!かっけー!テンテンの両親も映画スターだし、番宣とかもほとんど出ないよね!」
カズくんはさすがだな、つっけんどんな皇くんに対してもみんなと同じように接してる。
「……まぁな」
幸くんと皇くんの…夏組にとっての潤滑油みたいな存在になるんだろうな。
「それじゃあ、今から簡単な課題をやってもらうね。」
「課題って、この舞台の上でやるのか?」
「うん。そうだけど……?」
…一瞬、皇くんの瞳が揺らいだ?
「…課題なら問題ないか」
「どうかした?」
「いや、なんでもない」
いづみちゃんも気になったみたいだけど、課題を発表する。
まぁ、確かにオーディション進めないとだもんね。
それでもやっぱり気になるな。
「それじゃあ、おはようって言うセリフを喜怒哀楽の4つ感情で言ってみてくれるかな?」
最初は幸くん、つぎがカズくん、それから向坂くん。
みんなそれぞれ個性があって素敵なのに、プロからしたらやっぱり納得できないみたいで文句ばっかり言ってる皇くんをみてると、嫌な気持ちを通り越して悲しくなってくるな…
どうしてそんな言い方しかできないんだろう。
向坂くんも小さくなっちゃって、どんどん萎んでいくのを感じる。
「そこのポンコツ役者がため息なんてつくからだよ。ほんと、うざい。」
「おい、誰に向かってポンコツ役者って言ってんだ?」
不穏な空気が流れる。
「ま、待って、瑠璃川くん。僕の演技が味噌っカスで大根で下手くそだっただけだから」
「そこまで言ってたっけ?」
味噌っカスで大根…
「今日の夕飯ふろふき大根にしよ。肉味噌餡いいかも。」
ばっとみんなの視線が向く。
「アンタさっきからいるけど、誰だよ。」
わぉ、睨まれた。
うん、邪魔してごめんなさい。
向坂くんが味噌っカスで大根って言うから…