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3月9日  【A3】

第7章 豆桜


 「ん、」

 コーヒーを飲むより簡単に、至さんの言葉が胸にスッと落ちて少しだけスッキリする。

 「羨ましいよ、2人が」

 唐突にそんなことを言うから、その後何を言うんだと考えながら耳を傾ける。

 「芽李みたいな姉と、咲也みたいな弟でしょ。間に入れてくれない?」

 私と咲の間。
 至さんを間に挟んで三人で手を繋ぐ光景が浮かんで、中間子というより面倒見のいいお兄ちゃんって感じがする。
 …そもそも、この歳で三人で手を繋いで歩くなんて異様な光景だな。

 「俺のこと佐久間家の2番目として養子にとって、芽李の扶養にしてくれない?」

 …。

 「…せっかくさっきまでかっこよかったのに。」
 「働かずにゲームだけしてたい」

 いつもの至さんだ。

 「弟は咲だけで充分。弟として可愛がりたいのは、咲だけだもん。咲が1番可愛いし、優しいし、不器用だけど頑張り屋さんだし、かっこいいし、天使だし、守りたいし、」
 「わかった、わかった。圧凄すぎ。全く、それを本人に言ってやればいいのに…不器用なのは姉弟揃ってってことか。」

 若干馬鹿にしてる。
 むすっとして至さんをにらめば、鼻をつままれた。

 「…」
 「まぁ、でも。そう言うところも可愛いよね。さて、そろそろ部屋に入ろうか、芽李。」

 エスコートするように、手を取る至さん。
 服装がちゃんとしてたら王子様みたいだ。

 「そのコーヒー飲んで、朝までゲーム付き合ってよ。
 公演しばらくないんだし、いいよね?」

 …前言撤回。
 至さんに王子様なんて似合わない。

 「話聞いてもらったし、2時間までなら付き合ってもいーですよ。」

 ガチャっと103のドアを開ける。

 「残念、俺の部屋に入ったが最後。
 …今夜は寝かせないよ」

 わざとらしく低く甘い声。

 時計はその時点で、26時を指していた。

 促されたソファの上には脱ぎ捨てたスウェットがかけてある。

 明日は掃除てつだってあげないと、…
 そう思いながらスウェットをたたみ空いたスペースに座る。

 結局コーヒーに手をつけないまま、ゲームにログインする至さんを見ていた。


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