第7章 豆桜
「ん、」
コーヒーを飲むより簡単に、至さんの言葉が胸にスッと落ちて少しだけスッキリする。
「羨ましいよ、2人が」
唐突にそんなことを言うから、その後何を言うんだと考えながら耳を傾ける。
「芽李みたいな姉と、咲也みたいな弟でしょ。間に入れてくれない?」
私と咲の間。
至さんを間に挟んで三人で手を繋ぐ光景が浮かんで、中間子というより面倒見のいいお兄ちゃんって感じがする。
…そもそも、この歳で三人で手を繋いで歩くなんて異様な光景だな。
「俺のこと佐久間家の2番目として養子にとって、芽李の扶養にしてくれない?」
…。
「…せっかくさっきまでかっこよかったのに。」
「働かずにゲームだけしてたい」
いつもの至さんだ。
「弟は咲だけで充分。弟として可愛がりたいのは、咲だけだもん。咲が1番可愛いし、優しいし、不器用だけど頑張り屋さんだし、かっこいいし、天使だし、守りたいし、」
「わかった、わかった。圧凄すぎ。全く、それを本人に言ってやればいいのに…不器用なのは姉弟揃ってってことか。」
若干馬鹿にしてる。
むすっとして至さんをにらめば、鼻をつままれた。
「…」
「まぁ、でも。そう言うところも可愛いよね。さて、そろそろ部屋に入ろうか、芽李。」
エスコートするように、手を取る至さん。
服装がちゃんとしてたら王子様みたいだ。
「そのコーヒー飲んで、朝までゲーム付き合ってよ。
公演しばらくないんだし、いいよね?」
…前言撤回。
至さんに王子様なんて似合わない。
「話聞いてもらったし、2時間までなら付き合ってもいーですよ。」
ガチャっと103のドアを開ける。
「残念、俺の部屋に入ったが最後。
…今夜は寝かせないよ」
わざとらしく低く甘い声。
時計はその時点で、26時を指していた。
促されたソファの上には脱ぎ捨てたスウェットがかけてある。
明日は掃除てつだってあげないと、…
そう思いながらスウェットをたたみ空いたスペースに座る。
結局コーヒーに手をつけないまま、ゲームにログインする至さんを見ていた。