第7章 豆桜
「なら…、俺タイミング悪かったね。」
そう言いながら、いつものスカジャンのポケットからゴソゴソっと差し出してきた缶コーヒーと缶に入ったコーラ。
セレクトが彼らしくて、ホッとする。
「…ううん、大丈夫。ありがとう。」
缶コーヒーを受け取るとまだほんの少しあたたかい。
かしゅっ
しゅわしゅわ〜っと隣で音がして、至さんの喉が鳴る。
もらったコーヒーはブラックで、砂糖もミルクも入っていないみたい。
今の気持ちをコーヒーと混ぜて飲み干してしまって、スッキリして朝を迎えられればいいのに。
「芽李?」
まぁ、今の時間にコーヒーを飲んだら眠れなくなってしまうけど。
「怖いなって思ったの、せっかく今いい感じになってるのに、拒絶されたりして関係変わったらとか、いらないって言われたらどうしようとか、咲がそんなこと言うわけないのに。でも、そんなことになったら何にもなくなっちゃう、ここも出ていかなきゃいけないだろうし」
咲がいなくなった毎日を、1人の夜を嫌でも考えてしまう。
あんな夜をいくら思い出したとしても、みんなと過ごすことを知ってしまったから、今更1人になんてなりたくない。
何より咲と一緒にいたい、けど否定も拒否もされたくない。
話も出来るだけ聞いてあげたいのに、この件に関しては触れたくないなんて、自分勝手な思いに嫌になる。
すべては、咲と再開したあの日に嘘をついてしまったからだ。
あの日、ちゃんと話してたらこんなに臆病になる必要なんてなかったかもしれないのに。
嫌なことを後回しにしてしまったから、こんな状況になってるんだとわかるのに、…本当に馬鹿だな。
「咲といたいのに、咲の話聞きたくないって思うなんて姉失格だよねぇ」
「失格も何も、これからでしょ。」
簡単なことだと言うように、続ける。
「アイツと…咲也と、離れてた数年間をそんな短期間で埋めようとするのは勿体無いんじゃない?
拒絶されたりしてもさ、何回もぶつかればいいんだよ。」
コーラを片手に言っている、至さんの横顔をみる。
…涼しい顔をしてる。
「それこそ姉弟なんだし。…って、俺らしくないこといっちゃった。」
私が見ていることに気付くと、あざとく笑った。