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3月9日  【A3】

第7章 豆桜


 咲とこんなふうに過ごせるなんて、この劇団に入るまでは思わなかったな…

 「オレ、もっともっとお芝居頑張りたいです。
 もっともっと、酒井さんにも見てほしいです。」
 「うん」
 「…だから、言いたいことがあります。」
 「前に、いってたやつ?」
 「はい。」

 …息を呑む。

 「オレ、役者になりたいって思ったのは、…小学生の時に演劇観賞会で見た舞台がきっかけだったんです。」

 相槌を打ちながら聞く。

 「役者さんの生き生きしたお芝居を見て、こうなりたいって憧れたのもそうなんですけど、…こう言うふうに舞台に立ってたら、いつか、オレのことを見つけてもらえるかなって思ったんです。」
 「…」

 咲の真剣な目が私を捉える。

 「会いたい人がいたんです、だから…オレは希望を捨てずに生きてこられたんです。」

 バクバクと心臓が音を立てる。

 「………酒井さんは、…その、」

ーガチャッ

 「あー、ごめん。お取込み中だった?」
 「至さん」
 「監督さんが、咲也のこと探してたから」
 「すぐ行きますね。酒井さん、また今度言いますね。」

 ぺこっと頭を下げてバルコニーから中へと入った咲に、ホッとしてしまう。

 咲と入れ違いでバルコニーに入った至さんが私の隣に並ぶ。

 「…足のこと、心配かけてごめん」

 数分の沈黙の後、話し始めたのは至さん。

 「え、…あぁ。いえ、」
 「それから、辞めるって言ったのもごめん。とりあえず続けることにしたから、安心して。」
 「そう、」
 「驚かないんだ?」
 「うん、」
 「そういうとこだけするどいんだよな、芽李は…。
 まぁ、なんにせよ?あんなに熱くなるものだと思わなかった。それに気づけたのは、みんなや監督さんや芽李のおかげ。ありがとね、」

 コクコクとうなづく。

 「…ねぇ、咲也と何話してたの?」
 「…」
 「言えないなら言わなくてもいいけど、俺だけでしょ?聞いてあげられるの。」
 「どこからその自信く…」

 真剣な目で見てくるから、どうしようかと思う。

 「…否定はできないけど、」
 「でしょ、」
 「咲、私が姉だって気づいたみたい」
 「へぇ、よかったじゃん」
 「その話をしてる時に至さんがきたから、最後まで話はできなかったんだけど」
 
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