第7章 豆桜
咲とこんなふうに過ごせるなんて、この劇団に入るまでは思わなかったな…
「オレ、もっともっとお芝居頑張りたいです。
もっともっと、酒井さんにも見てほしいです。」
「うん」
「…だから、言いたいことがあります。」
「前に、いってたやつ?」
「はい。」
…息を呑む。
「オレ、役者になりたいって思ったのは、…小学生の時に演劇観賞会で見た舞台がきっかけだったんです。」
相槌を打ちながら聞く。
「役者さんの生き生きしたお芝居を見て、こうなりたいって憧れたのもそうなんですけど、…こう言うふうに舞台に立ってたら、いつか、オレのことを見つけてもらえるかなって思ったんです。」
「…」
咲の真剣な目が私を捉える。
「会いたい人がいたんです、だから…オレは希望を捨てずに生きてこられたんです。」
バクバクと心臓が音を立てる。
「………酒井さんは、…その、」
ーガチャッ
「あー、ごめん。お取込み中だった?」
「至さん」
「監督さんが、咲也のこと探してたから」
「すぐ行きますね。酒井さん、また今度言いますね。」
ぺこっと頭を下げてバルコニーから中へと入った咲に、ホッとしてしまう。
咲と入れ違いでバルコニーに入った至さんが私の隣に並ぶ。
「…足のこと、心配かけてごめん」
数分の沈黙の後、話し始めたのは至さん。
「え、…あぁ。いえ、」
「それから、辞めるって言ったのもごめん。とりあえず続けることにしたから、安心して。」
「そう、」
「驚かないんだ?」
「うん、」
「そういうとこだけするどいんだよな、芽李は…。
まぁ、なんにせよ?あんなに熱くなるものだと思わなかった。それに気づけたのは、みんなや監督さんや芽李のおかげ。ありがとね、」
コクコクとうなづく。
「…ねぇ、咲也と何話してたの?」
「…」
「言えないなら言わなくてもいいけど、俺だけでしょ?聞いてあげられるの。」
「どこからその自信く…」
真剣な目で見てくるから、どうしようかと思う。
「…否定はできないけど、」
「でしょ、」
「咲、私が姉だって気づいたみたい」
「へぇ、よかったじゃん」
「その話をしてる時に至さんがきたから、最後まで話はできなかったんだけど」