第7章 豆桜
「ごめんごめん、次は僕がジュリアスのために仮死薬の材料を取りに行くよ。」
「あんなことがそうそう何回もあってたまるか。」
2人のセリフを終えて、幕が降りる。
その瞬間、驚くほど大きな拍手の音が響く。
…すごいな、
みんなの舞台でこんなに心を動かされた人がいる。
「……すごい。今までで1番大きい。」
「スタンディングオベーションだ。」
「どうなるかと思ったヨ!」
「至さん、足、大丈夫ですか!?」
…そっか、カーテンコールだ。
何も言わない至さんを見れば、ポロポロと泣いているのに気付く。
「えっ、至さん!?そんなに痛いんすか!?」
「救急車」
「すぐ呼びますっ!」
携帯を取り出して、番号を押そうとした私の腕をパッと掴んで首を振った至さん。
「ーー違」
「違う?」
「なんか今……今までの人生でないくらい、自分が熱くなってて、笑えるだけ。」
「泣いてんじゃないっすか」
すかさずツッコミを入れた綴くんに続いた咲、シトロンくん、真澄くん。
そんな五人に思わず笑いがこぼれる。
…あったかい春の陽気みたいだ。
ーーーーー
ーー
千秋楽を終えて、その打ち上げもさっき終わった。
成人を迎えてる大人達は軽くお酒も呑んで、本当に楽しい打ち上げだった。
片付けを終え酔いを覚ますため、バルコニーに夜風にあたりに行けば、フワッと少し暖かい風が頬を撫でて…
もう春も終わるんだと、ただ季節が変わるだけなのに妙に寂しくなる。
「夏…か」
「あれ、こんなところにいたんですね」
後ろから聞こえた声に振り向けば、満開の笑顔で隣いいですか?と聞いてきた咲。
…もちろんいいに決まってる。
スッとスペースを開けると、遠慮がちに隣に並んだ。
桜の匂いが少しだけした気がする。
「お疲れ様でした、座長」
「いえいえ、こちらこそです!サポートありがとうございます。」
「…今日のお芝居、とってもかっこよかった。」
「っ!ありがとうございます!」
「至さんのカバーに入ったのを見た時、純粋に凄いなって思って。胸が熱くなった…って、まだ酔ってるのかも」
「そんなふうに思ってもらえるなんて、役者冥利に尽きますね。
オレも、楽しかったです。」
「そっか。」
…少しの間沈黙が流れる。