第7章 豆桜
公演を重ねるうちに、より上手くなってくロミオとジュリアスの掛け合い。
ロレンス神父も、こっちがハラハラしないくらいまでには、日本語のセリフが上手くなってる。
マキューシオだって堂々としていて、千秋楽の舞台が今までで1番かっこいい。
ティボルトも…、痛いんだろうな、足。
庇うようにして動いてる。
でも、それを感じさせないように涼しい顔でセリフを重ねてる。
無理しないでって、それこそ無理な話だ。
旗揚げ公演の千秋楽なんだから。
ここで繋げないと次の季節にならないことも、痛いくらいに分かってるんだ。
みんなと立つ舞台も、今この瞬間だけはゲームに劣らないくらい、楽しいんだきっと。
無事に三幕がおわれば…、そんな祈るような気持ちでいるとあっという間にシーンが進んでいく。
次のシーン、ティボルトが倒れればあとはみんながどうにかしてくれる。
はずなのに…
舞台の上に緊張が走ったのは、ティボルトが足を庇って倒れ損ねたからだ。
観客たちもざわざわし始める。
「すみません!一旦幕を…」
そんな、いづみちゃんの声が舞台裏で響く。
賢明な判断かもしれない、だけどそんなことになったらそれこそ辞めちゃうかもしれないっ、
『やめろ、ティボルト!もう戦いは終わったんだ!』
凛と響く声に、
『剣を下ろせ!』
胸が熱くなるのを感じる。
『ーー死ね!ロミオ』
それに応えるようにティボルトも言葉をつづける。
初日なら、きっとこうはならなかった。
「幕、どうします?」
スタッフの声にこのまま続けると言ったいづみちゃんに、ホッと胸を撫で下ろす。
三幕を終えてはけてきたティボルト…こと、至さん。
額には汗が浮かんでる。
動いたこともそうだけど、それだけじゃないはずだ。
はけてすぐいづみちゃんが至さんに駆け寄って、何か言ってる。
その間にパイプ椅子を近くに運ぶと、至さんと目があった。
「終わったら病院だからね。」
「ほら、芽李ちゃんだって同じこと言ったでしょ。」
「わかってるよ、2人とも。心配かけてごめん、みんなもごめん」
まだ舞台に立ってる2人を除いたメンバーに軽く頭をさげ、差し出したアイシングを受け取った彼に綴君もシトロンくんも優しく笑って答えていた。