第7章 豆桜
「……千秋楽、完売しました。
たった今、最後の一枚が売れました。」
「千秋楽が………、完売した……」
「これで、劇場は無くならないってことっすよね…」
「そうだよ、みんな!みんなのおかげだよ!」
いづみちゃんの声に、みんなが歓喜する。
綴くんは真澄くんを起こして、シトロンくんは至さんに抱きついて…、
「無事に千秋楽は完売、もう心配することは何もないよ。
千秋楽までは残り2日、四公演。
みんな悔いのないようにやり切ろうね。」
「はい!!」
「おお!」
「うん。」
「頑張るネ!」
「……」
完売を喜んだ後、今日はもう終わりにしようといづみちゃんの発案でそれぞれ夜食を取ってゾロゾロと稽古場を後にする。
先に出た至さんの様子がどうしてか、引っかかって…
気付いたら103号室まで着いてきてた。
くいっと、ジャージの裾を掴む。
「……なに?」
なんて言葉を掛ければいいか、迷っているとスッと手を解かれる。
「用がないなら、後にしてくれないかな?明日も早いし」
どうしよう、確かに…
明日でも…
「あのさ、えっと…、」
「急ぎ?」
「足、何かあった?」
流石にストレートすぎたか…
恐る恐る顔を上げると、揺れたピンクの目。
「何急に。なんもないよ、芽李も疲れたんじゃない?
早く寝な。」
ぽんぽんと2回頭を撫でた至さんが、パタンとドアを閉める。
…しくじった。
ガチャっと鍵をかけられる音がする。
こんなふうに拒絶されるの、なんていうか久しぶりで。
「ははっ」
…っと、乾いた笑いしか出ない。
「…メイ?」
「あ、シトロンくん」
背後からの声に勢いよく振り返る。
「何かあったネ?」
…シトロンくんか。
「ううん、あーっ…っと、ちょっとやらかしたってだけ。
シトロンくんは?」
さっき、眠ってしまうくらい疲れてたのに、にっこり笑って私の背中側に回るとそのまま押してくる。
「イタルに用があったんだけど…今日はやめておくネ。代わりにメイ、ワタシと夜会でもするネ〜っ」
ホットミルクを入れてくれたシトロンくんと話していても、至さんが気になって集中できない。