第7章 豆桜
「わお、積極的。」
「言ってないで、どうにかしますよ!至さん!」
「離れろ、俺は監督を抱きしめたい」
「ワタシもぎゅーっとするネ」
「酒井さん…?」
わちゃわちゃする声に、腕の力を弱める。
「よがったぁっ、ロミオもジュリアスもっ、神父様も、マキューシオもティボルトもっ」
「はいはい。ほら、こっちおいで」
「私、マキューシオ派なのでごめんなさい」
「え、まさかのそっち?」
刻々と首を縦にふるとスカッと空気を抱きしめるようにして、自分を抱きしめたティボルト。
「はいはい、茶番は一旦ストップ。まだやることあるんだからね。」
いづみちゃんに諭されながら、そういえばそうだったとそれぞれ動き出す。
とりあえず初日、無事終わって良かった。
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あれから何度か雄三さんの微調整とも言える指導と、公演と、反省と、朝早くから夜遅くまでみんな頑張って更にいいものになっていく舞台。
「お夜食もってきたよーっ」
束の間の休憩。
昼間のうちに仕込んでいたそれを稽古場に持っていく。
運ぶのを手伝ってくれたいづみちゃんにありがとうと伝える。
「いいえー、こちらこそ。
…って、
あれ、寝てる………連日、公演の後遅くまでミーティングじゃ、当たり前か。」
たしかに、静かに目を伏せている。
「そうだね、あ。掛け物持ってくる。」
「ありがと」
洗濯し、畳まれたそれを運んで2人でかけて回る。
「明日のために、今は少しでも休んでね。」
いづみちゃんの優しい声。
みんなの寝息…
「残すとこ、後2日だね」
「そうだね。」
「監督、大変です!」
しみじみと話していたのに、バタバタと忙しなく入ってきた支配人に、私たちも驚く。
でもそれ以上に、みんなもびっくりしたみたいでせっかく天使の寝顔をしていた咲を筆頭に起きてしまった。
…真澄くんを除いて。
「せ、せせせせ」
「せんべい?」
なんでそうなる、いづみちゃん。寝起きで仕事をしない綴くんに変わって、心の中でツッコミを入れる。
「落ち着いて深呼吸でもしてください。何があったんですか?」
深呼吸を素直にする支配人。
息を呑むみんな…。