第7章 豆桜
『本日はMANKAIカンパニー春組公演、ロミオとジュリアスにご来場いただきまして、まことにありがとうございます』
まだチラホラと空いてる席、今日を見れない人が可哀想だ!と強がりなことを思いながら1番後ろに立って会場を見回す。
ここにきて、思えば色々なことがあった。
「ここで何してる」
コソッとした声に後ろを振り向けば、金髪メガネのヤクザとその手下。
って、こんなこと思ってるのバレたらしばかれるな…
「見回りですよ、」
「そうか」
「後ろでうるさい、アンタたちも早く座りなよ。」
目の前の座席で幸くんの髪が揺れる。
「え、ここの席だったの?」
「まぁね。芽李さんだって思って、話しかけようとしたらヤクザに先手取られたから納得いかないっておもってたとこ。」
幸くんの隣に左京さんと2人でそれぞれ座る。
私はいつでも動けるように通路側に座らせてもらっている。
少しザワザワしていた客席が一気に静かになって、舞台に電気が灯る。
『今日こそ、ロザラインを誘うんだ』
幸くんの衣装に包まれて、舞台に立つ咲を見るのはやっぱり感慨深くて。
うるっときていると、可愛いクマの刺繍がされたハンカチをぐいっと押しつけられた。
真澄くんも出てきて、堂々と演技していてジュリアスはやっぱり真澄くんなんだと確信する。
『ロミオ、お前には力がある。俺には頭脳が。2人ならきっとなんでもうまくやれる。』
舞台が進んでゆく。
雄三さんに教えてもらった殺陣、みんなちゃんとうまくやってる。
緊張も始めのうちは伝わってきていたけど、物語が進むにつれてそれもわからないくらいになってきた。
舞台のセットも鉄郎さんがしてくれた甲斐があって、あの日咲がした『ロミオの学園天国』とは天と地の差だ。
二幕を迎えて、次に出てくるのはマキューシオ。
あの日、みんなの前でやるのが恥ずかしいと言っていた綴くん。
でも、やっぱり稽古を重ねたからかずっと背筋がのびてイキイキしてる。
ロレンス神父のシトロンさんもでてきて、舞台がパッと華やかになる。
三幕、綴くんと至さんの殺陣。
ロミオとジュリアスのコンビも良かったけど、マキューシオとティボルトの殺陣も見応えがあった。
普段あんなにゲームしてるくせに、魅せ方がうまい。