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3月9日  【A3】

第7章 豆桜


 「はーい、次俺の番。よろしくね、芽李。」

 ガチャっと開いたドアに目を向ければ涼しい顔の、至さん。
 鏡の前に座って、ケータイをいじり始める。

 「至さん、わたしがいじる必要無いんじゃない?」
 「願掛けだよ、願掛け。そんなこと言うなら、シトロンだってそうじゃん。」
 「どうしよ、イケメン度が下がったら。」

 といいつつ、軽く手にワックスを馴染ませる。

 「はは。」
 「ヘアメイクの勉強始めようかな。」
 「いいんじゃない、春だし。」
 「ふむ。」
 「お前の中のティボルトってどんなイメージ?」
 「…外面の至さんと寮での歳下に対する至さん足して2で割った感じ?」
 「へぇ。そう考えると綴ってやっぱり凄いな」
 「うん。」
 「そういえば、稽古始めた頃役名で呼び間違ったことあったけど、あれ以来ないよな」

 よくもまぁ覚えてるもんだと、一旦手を止める。

 「…練習したんだよね。こう、脳内変換の。流石に恥ずかしくて」
 「いいのに、可愛かったし」
 「サラッとそう言うこと言うよね。怖いなー、イケメン。」
 「芽李だって、サラッと言うじゃん。」

 この顔を見てイケメンだと思わない人がいるなら、連れてきて欲しい。
 口には出さずに、最後の仕上げをする。

 「はい完成。」
 「お。…やっぱよく見てるな、」
 「いつもの至さん」
 「それは違うな。芽李がセットしてくれたから、今日はアルティメット至さん。」

 …アルティメットってなんだ?
 と、思いながら満足げな至さんに言う。

 「至さん、…あの時ありがとう。や」

 むごっと口を抑えられる。

 「それはまだ言わないでくれない?」
 「…」
 「これからだろ、舞台は。」
 「うん、」
 「ピザパーティもしてくれるって言ってたしね。」
 「本当によく覚えてるね。」
 「一言一句聞き逃したくないんだよね、芽李の言葉を。」

 ギラッとした彼の目とあう。
 全身に熱を帯びそうで、誤魔化すように戯けてみせる。
 
 「…ピザ窯作ってもらわないとね、鉄郎さんに。」
 「………なら、一層頑張んないとな。」
 「稽古通り、やり遂げれば大丈夫。」
 「ん。さてと、」

ー…トントン

 至さんが立ち上がったタイミングで入ってきた咲。

 「ナイスタイミング。次、咲也の番。」
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