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3月9日  【A3】

第7章 豆桜


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 「はい、完成。どーかな、」
 「それなり。」
 「マスミ、顔緩んでるヨ。素直じゃないネ」

 黒と金が混じったその色を、私に預けてくれるようになるなんて、初めは思ってなかったんだけどな。

 「どう?俺、かっこいい?」

 鏡越しに聞いてくる真澄くんに、すっごくかっこいいと返せば

 「じゃあ、監督に見せてくる」

 と、楽屋を飛び出してった。

 「じゃあ。次シトロン君、座って?」
 「はーいだヨ」

 お行儀よく座ったシトロン君の髪に触れる。

 「シトロン君の髪、サラサラだね。」
 「メイも、梳かすの上手ネ…久しぶりに思い出したヨ」
 「ん?」
 「故郷に置いてきた友達のコト、」

 瞼を閉じて優しい表情をするシトロン君。

 「…そっか、」
 「メイ?」
 「ロミオとジュリアス、綴くんは自分の経験を参考にしたって言ってたけどさ、シトロン君の話でもあったんだね。」
 「…」
 「シトロン君も、いろんなところを旅して、その景色をその友達と一緒に見たかったんだね。」

 私の言葉に目を見開く。
 ガラスみたいな目が私を捕らえる。

 「…って、無神経だったかも、ごめん。」

 ふと思ったことを口に出してしまったことに申し訳なさが勝って、その綺麗な色が曇ったらどうしようかと悩んだその時、鏡越しに綻んだ表情。

 「…そうかもしれないネ。ふふ、メイもそう言う相手いるネ?」
 「どうして?」
 「経験してないと、気持ち分からないとワタシ思うネ。」

 たしかに、この話を読んであの頃2人でどこまででも行けたらって思った。

 「…ん、だね。シトロン君には敵わないな。」
 「それは、ワタシのセリフ。メイ、いつかワタシがこの話の神父みたいにメイのこと、導いてあげるヨ。
 だから、…ずっとここにいてほしいネ」

 いつもとは違って熱のこもった目で、私を見るから、

 「大丈夫だよ、」

 …目を逸らしてしまった。

 「はい、完成。」
 「オリゴトウだヨ」

 相変わらず癖のある日本語にクスッと笑ってしまうと、戯けたように、イタルを呼んでくるネと言って先から立ち上がっていった。

 静かになった控え室に、かけてある衣装。
 着替えが終わってないのは、至さんと咲だけか。
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