第7章 豆桜
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「はい、完成。どーかな、」
「それなり。」
「マスミ、顔緩んでるヨ。素直じゃないネ」
黒と金が混じったその色を、私に預けてくれるようになるなんて、初めは思ってなかったんだけどな。
「どう?俺、かっこいい?」
鏡越しに聞いてくる真澄くんに、すっごくかっこいいと返せば
「じゃあ、監督に見せてくる」
と、楽屋を飛び出してった。
「じゃあ。次シトロン君、座って?」
「はーいだヨ」
お行儀よく座ったシトロン君の髪に触れる。
「シトロン君の髪、サラサラだね。」
「メイも、梳かすの上手ネ…久しぶりに思い出したヨ」
「ん?」
「故郷に置いてきた友達のコト、」
瞼を閉じて優しい表情をするシトロン君。
「…そっか、」
「メイ?」
「ロミオとジュリアス、綴くんは自分の経験を参考にしたって言ってたけどさ、シトロン君の話でもあったんだね。」
「…」
「シトロン君も、いろんなところを旅して、その景色をその友達と一緒に見たかったんだね。」
私の言葉に目を見開く。
ガラスみたいな目が私を捕らえる。
「…って、無神経だったかも、ごめん。」
ふと思ったことを口に出してしまったことに申し訳なさが勝って、その綺麗な色が曇ったらどうしようかと悩んだその時、鏡越しに綻んだ表情。
「…そうかもしれないネ。ふふ、メイもそう言う相手いるネ?」
「どうして?」
「経験してないと、気持ち分からないとワタシ思うネ。」
たしかに、この話を読んであの頃2人でどこまででも行けたらって思った。
「…ん、だね。シトロン君には敵わないな。」
「それは、ワタシのセリフ。メイ、いつかワタシがこの話の神父みたいにメイのこと、導いてあげるヨ。
だから、…ずっとここにいてほしいネ」
いつもとは違って熱のこもった目で、私を見るから、
「大丈夫だよ、」
…目を逸らしてしまった。
「はい、完成。」
「オリゴトウだヨ」
相変わらず癖のある日本語にクスッと笑ってしまうと、戯けたように、イタルを呼んでくるネと言って先から立ち上がっていった。
静かになった控え室に、かけてある衣装。
着替えが終わってないのは、至さんと咲だけか。