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3月9日  【A3】

第7章 豆桜


 月に照らされた咲の表情は、どこか清々しくて。

 「じゃあ、オレもう寝ますね。芽李さんも明日に備えて、いっぱい寝てくださいねっ」

 わざとなのか聞きなれない咲の名前呼びに、戸惑いながらも答える。

 「うん、ありがとう。私も寝ようかな。
 佐久間君も、ゆっくり休んでね」

 咲がそっと手すりから離れて、私もそれに続くようにバルコニーを出る。

 まずは初日、そこからだ。

 …咲の聞きたいことってなんだろう。

 咲と、離れて1人くらい部屋に入る。
 あの頃みたいで少し切なくなりながら、ベットに入り込む。
 ひんやりとした布団が体温に馴染んで来たころ、ようやく眠くなってきた。

 どうか明日、成功しますように。

ーーーーーー
ーーー

 目覚ましよりも早く目が覚めてしまって、また目を閉じれば寝坊してしまうかもしれないと、冴えない意識の中で考える。

 「…」

 重い身体を起こしながら、ベットを出て着替える。

 今日の流れを頭で組み立てて、…っと。

 欠伸をしながらキッチンに向かう。
 意外にも先客がいて、しかもそれが意外と言えば意外な人で。

 「おはよう、真澄くん」
 「…アンタか。…おはよう。」
 「早いね、」
 「アンタも早い」
 「ん、なんか目が覚めちゃって。真澄くんも?」

 コクッとうなづいた彼にそっかと返すと、少しの沈黙。

 「…あのさ、」

 せっかくだから、今日の差し入れでも作ろうと取り掛かろうとすると、ソファの上から声が聞こえる。

 「この間の、…ホットミルク作って。」

 遠慮がちな彼の声にこれまた少し珍しく感じながら、せっかくのリクエストに応えようと鍋にミルクを注ぐ。

 今日は、ちゃんと作ってあげよう。
 …時間もあるしね。

 「ん、もう少し待っててね。」

 彼のお気に入りのマグカップを取り出す。

 少し立ってから、沸々としてきたミルクに魔法をかけてゆく。

 なんて、そんな大したことはできないんだけど。

 沸騰したら火を止めて、彼のコップへと注ぐ。

 「お待たせ、めしあがれ。」
 「いただきます」

 入寮当初から、だいぶ素直になったもんだと思いながらテーブルに置かれたコップが彼の手によって口元に運ばれるのを見る。
 彼の横を見れば私があげたブランケットが綺麗に畳まれて鎮座している。
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