第7章 豆桜
「いよいよ、明日本番だね。」
「うん、チケットはまだ少し残ってるんだけどね…」
「そっか。」
今日が最後の通し稽古だった。
感慨深いな、…
「あっという間だったなぁ、」
「明日が本番なんだから、まだしみじみするのは早いよ」
「そうだよね、うん。差し入れもいっぱいもってくね。」
バルコニーでいづみちゃんと2人、寝る前に少しだけお話をする。
なんだか、そわそわして寝れなくて夜風にあたりに来たら先客がいて、それがいづみちゃんだった。
「…芽李ちゃん、」
「ん?」
「明日もよろしく。」
「こちらこそ、監督。」
先に戻ると言ったいづみちゃんに、私はもう少しここにいると伝えて、1人になったバルコニーで今までを思い起こす。
…なんて、気が早いか。
さっきいづみちゃんにも言われたもんね。
少しだけ暖かくなった季節に、春の終わりを感じて。
月に祈る。
明日の成功と、千秋楽まで無事に駆け抜けられるようにと、
「…あれ、酒井さん?」
「ん、あ。佐久間くん。」
「どうしたんですか、バルコニーで。」
「なんとなく寝れなくてね、さっきまでいづみちゃんもいたんだけど」
ちょこちょこって寄ってきた咲に少しだけ場所を譲る。
「佐久間くんこそ、どうしたの?」
「オレも寝れなくて寮をお散歩してました。…でも、酒井さんと会えるなんて、ラッキーでした。」
ニッコリと笑った咲は、まだ幼さが残っている。
「そう?」
「はい!最近はあまり2人でお話できなかったので、嬉しいです」
「そっか、そう言ってくれるのなら私も嬉しい。」
少しだけ沈黙がつづいて、先に口を開いたのは咲。
「酒井さん、オレ座長として絶対にみんなと舞台を成功させます!」
「うん、私も裏方としてささえるね、」
「そして、…千秋楽まで走り切ったら」
凛とした声色が揺れる。
「…」
咲の言葉を待つ。
「言いたいことがあります。…というか、聞きたいこと?があって、」
「え…」
ドキッとする。
「だから、お時間ください。」
「それはもちろん良いけど、…今じゃダメなの?」
「はい」
真剣に返事をしたかと思えば、悪戯にまた笑う。
「もう少し待っててください、オレのために」