• テキストサイズ

3月9日  【A3】

第7章 豆桜


 「いよいよ、明日本番だね。」
 「うん、チケットはまだ少し残ってるんだけどね…」
 「そっか。」

 今日が最後の通し稽古だった。
 感慨深いな、…

 「あっという間だったなぁ、」
 「明日が本番なんだから、まだしみじみするのは早いよ」
 「そうだよね、うん。差し入れもいっぱいもってくね。」

 バルコニーでいづみちゃんと2人、寝る前に少しだけお話をする。
 なんだか、そわそわして寝れなくて夜風にあたりに来たら先客がいて、それがいづみちゃんだった。

 「…芽李ちゃん、」
 「ん?」
 「明日もよろしく。」
 「こちらこそ、監督。」

 先に戻ると言ったいづみちゃんに、私はもう少しここにいると伝えて、1人になったバルコニーで今までを思い起こす。

 …なんて、気が早いか。
 さっきいづみちゃんにも言われたもんね。

 少しだけ暖かくなった季節に、春の終わりを感じて。
 月に祈る。
 明日の成功と、千秋楽まで無事に駆け抜けられるようにと、

 「…あれ、酒井さん?」
 「ん、あ。佐久間くん。」
 「どうしたんですか、バルコニーで。」
 「なんとなく寝れなくてね、さっきまでいづみちゃんもいたんだけど」

 ちょこちょこって寄ってきた咲に少しだけ場所を譲る。

 「佐久間くんこそ、どうしたの?」
 「オレも寝れなくて寮をお散歩してました。…でも、酒井さんと会えるなんて、ラッキーでした。」

 ニッコリと笑った咲は、まだ幼さが残っている。

 「そう?」
 「はい!最近はあまり2人でお話できなかったので、嬉しいです」
 「そっか、そう言ってくれるのなら私も嬉しい。」

 少しだけ沈黙がつづいて、先に口を開いたのは咲。

 「酒井さん、オレ座長として絶対にみんなと舞台を成功させます!」
 「うん、私も裏方としてささえるね、」
 「そして、…千秋楽まで走り切ったら」

 凛とした声色が揺れる。

 「…」

 咲の言葉を待つ。

 「言いたいことがあります。…というか、聞きたいこと?があって、」
 「え…」

 ドキッとする。

 「だから、お時間ください。」
 「それはもちろん良いけど、…今じゃダメなの?」
 「はい」

 真剣に返事をしたかと思えば、悪戯にまた笑う。

 「もう少し待っててください、オレのために」
/ 553ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp