第7章 豆桜
「あら?真澄くん。こんなとこでなにしてんの」
夜、2階のバルコニーのドアが開いていて、鍵をかけ忘れたのかと覗けば端っこでダンゴムシのようになってる真澄くんがいた。
「うるさい…、あんたに関係ない…」
声にいつもの覇気がなく、弱々しい………?
「ふむ。」
とりあえずそのままに、キッチンに向かう。
春と言ってもまだ少し寒い時期に、あんなとこ居たら風邪をひいてしまう。
と、ミルクと蜂蜜にジンジャーとシナモンのパウダー、それらを取り出しホットミルクを作る。
火にかけてもよかったんだけど、少し手抜きをしてレンジでチン。
その間にブランケットを持って………と。
案の定、ドアはまだ開いていて。
コトッとバルコニーのテーブルにお盆を置けば、ぴくんっと肩が揺れた。
少しだけ視線を向けた彼は、私だとわかるとまた蹲る。
モコモコのブランケットは、彼を包むのに十分な大きさで。
フワッとかけてやると、また目線が合う。
「何、」
悲しそうな目に月が映っていて、どうしたもんかと思えば刺々しい声でそういうもんだから、なんて言葉をかけるのが正解なのかと悩んでしまう。
「いや?寒いかなって思って。」
きゅっと、正面に回したブランケットの両端をボタンで止めるとポンチョみたいになる、なかなか有能なタイプのソレはまん丸になった今の真澄くんにすごく似合っててかわいいなんて、ちょっと失礼だろうか。
「ホットミルクつくったんだけど」
「いらない」
「そっか、ん。わかった。風邪引く前にお部屋もどりなよ、」
無理強いはよくないかと、お盆を持ってバルコニーを出ようとすると、私のズボンの裾をぎゅっと握って。
「…アンタの分は?」
と、上目遣いで聞いてくる。
「ないよ、でも真澄くん飲まないなら飲むけど。」
「俺のために作ったの?」
「まぁ、そうだね。」
何も言わず黙ってしまった彼の目線に合わせてしゃがみ、まだ温かいカップを渡すと、案外すんなり受け取った。
「…ありがと」
かろうじて聞こえるくらいの声で呟いた真澄くんに、どういたしまして、と返す。
「…おいしい」