第6章 丁子桜
「へぇ、いい名前じゃん。雄大なかんじで、どんなものにでもなれそう。」
「…そんなん、初めて言われた」
「私も誰かの名前褒めるの初めてかも。…って、支えてるのはいいんだけど歩けそう?私駅までなら送るよ」
「何で?」
「徒歩で。」
「迷子っつったよな、行けんの?」
…たしかに。
っち、と舌打ちをした後私から離れると、背を向けて歩き出す。
トボトボだけど。
「万里くん、歩いて大丈夫なの?」
「ヘーキ。こんくらい、いつも慣れてる」
「え?、それは心配じゃん…あっちょっと待って、」
スマホケースから出した絆創膏を2枚万里くんに渡す。
素直に受け取ってくれた彼がすかさずつっこむ。
「さんきゅ。てか、スマホあんじゃん」
「電源きれてんのよ」
「使えねぇ」
えぇ、断じてその通りですよ。
スラスラと先に行く万里くん、脚長すぎ。
マンチカンとキリンくらい違うから万里くんが合わせてくれなかったらあっという間に置いてかれるんじゃないかと思う。
そして、これは物の例えであって、自分がマンチカン並みに可愛いと言ってるわけではない。
「万里くん、ありがとう。今日ちょっとやらかしてしまって落ち込みそうだったからさ、こうやってお話しできてよかったよ」
道中ずっと話してくれてた彼は話すのも聞くのも上手で、そんな子が何で喧嘩なんてって思うけど考えるのをやめた。
人には事情あるもんね。
「ついたぞ」
「わお!あっというま!ありがとう!!」
「俺こそ。」
「万里くんはこれからどうするの?」
「家に帰る。」
「そうだよね、」
「ん。あー、コレありがとな。」
貼ってあげた絆創膏を指差して言ってる。
「いーえ、結局怪我人歩かせちゃったし。お大事にね。」
「ん。」
「喧嘩はほどほどに」
「アンタも迷子、ほどほどにな。」
ニヤッと笑って、じゃあなと去っていく万里くんは猫のようにゆらゆらとまた暗闇に溶けてった。
「なんてね。えーっと…」
「ビロードって読むんだよ、メイメイ♪」
「は?」
「やっほー、迷子だって?」
「かずくん、その呼び方と迷子情報どっからきたの?」
チラチラとスマホを揺らすかずくんは満面の笑みで答えた。
「カンパニーのみんな今必死で探してるっぽいよ!」