第6章 丁子桜
「僕だって!…っ、とにかく!…芽李の劇団って知らなかったから、」
「知らなかったから、貶していいの?」
「それは…」
「晴翔は、演劇好きだって思ってた。
そんな晴翔が自分の大好きな演劇に関わってる人にあーいうこと言うのは聞きたくない。
あーいうことするのも、見たくない。
GOD座は確かに凄いのかもしれないけど、それが偉いわけじゃない。」
「…」
「トップならトップらしく、まだまだかもしれないけどせっかく出た芽を摘むんじゃなくて、もう少し見守ってよ。
傷つけないでよ、…」
「今日は、いつもみたいに呼ばないんだな」
「え?」
黙り込んでしまった晴翔。
そういえば、腕離してなかったな…
今更だけど腕を離そうとすると、今度は逆にこっちが掴まれる。
…凄い力で。
「勝手なこと言うなよ!お前に何がわかるんだよ!
むしゃくしゃしてたよ、確かにあたったよ!
…けど、ヘタなのはホントだろ!
あれでプロって言えるの?
どうしてお前がいるのがあの劇団なの、あいつらを庇うの?」
熱い目の晴翔に何もいえなくなる。
「付き合いは僕の方が長いじゃないか、そうだろ?
旗揚げ公演って言ってたもんな。…っ、あんな奴らが大切って言えるお前の気がしれないよ。」
だんだんと強くなっていく手の力に、腕がだんだんと苦しくなっていく。
「大好きな友達って、僕はそんな幼稚な肩書きいらない。
生ぬるい友情ごっこなんてするつもりもない、トップだぞ、…僕は。」
ゆっくりと近づいてくる顔に話が見えなくて、怖くなる。
「ちょ、はる、やめ」
空いてる方の手でその顔を抑えようと伸ばすとフニャッとした感覚が掌にあたる。
ちゅっ
いやらしくリップ音を立てて、そこから顔を離してく。
「…お前は、謝れって言ったけど…僕は謝る気ないから。僕は演劇が好きだよ、お前が何と言おうと。
あんなの、演劇への冒涜じゃないか、それを貶して何が悪いのさ。
悔しかったら、僕たちと同じ場所までのしあがってきなよ弱小劇団。そんで、謝らせれば…まぁそんなこと無理だろうけど。」
手が離れる。
「……じゃあね。」
そう言って私の横を通り過ぎた晴翔。
…掴まれていた場所は真っ赤に跡がついていた。
辺りはすっかり夕暮れて、どこかで時報がなっていた。