第6章 丁子桜
「綴くんのやるマキューシオが好き。だから、私のためにみんなに見せつけてよ、私の大好きなマキューシオをさ?」
ゆっくりと手を離す。
「そうそう、このままだと身内意外にお披露目することもできなくなっちゃうんだよ?」
「ーーそっすよね。」
2人の方に行く綴くんの姿がいつもより逞しく見える。
「"ロミオ、失恋したんだって?気にするな。女なんて世界にごまんといるさ"」
前よりも上達した演技は、雄三さんとみんなの努力のおかげだ。
「ストリートactなのに、今のは大袈裟すぎたかな。」
「千秋楽並みの熱い告白だったね」
「どうしてかな、言いたくなっちゃったんだよね。」
きっと駆け出しのみんなより、心を震わせるお芝居ができる役者さんなんてそれこそ、ごまんといるだろう。
綴くんよりも上手く言葉を紡いで、話を描く作家さんだってきっとそうだ。
でも、誰に何と言われようと思われようと、私の中の一番は春組のみんなで、いづみちゃんの監督するこのMANKAIカンパニーだ。
街の人たちが足を止めていく。
コソコソと感想が聞こえる。
いいものも、悪いものも。
「……レベル低」
だけど、どうしてそんな声拾っちゃったんだろう。
聞き覚えのある声を…
「やめろ、晴翔」
「ほんとのことだし。」
街頭では目立つピンクの髪と中性的な顔立ち。
「何だよ」
「聞こえちゃった?」
「文句あるならはっきり言え」
「レベルが低いと思っただけだよ。図星だった?」
2人を止めに入ったいづみちゃんと、向こうの仲介役。
「へぇ、じゃあ、あんたも何かやってみてよ。こんなレベルの奴らに教えてる監督が、どんなレベルか見てみたい」
他のみんなが監督を庇おうとするのに、なぜか動けない私。
いづみちゃんは、ロミオのセリフを言う。
私の大好きな、だいすきな…
「は?何、今の。冗談じゃなくて?主宰が1番下手とか、ウケるんだけど」
「やめろ、晴翔」
「わかったでしょ。もう邪魔しないで」
「そんなレベルで指導してて、こいつらに失礼とか思わないの?」
「ー殺す」
「真澄くん、ダメだよ!」
「ムカつくけど、やめと…芽李さん!?」